誇り高き掃除屋

元ネタ:Fate/stay night 設定:凛TE

誇り高き掃除屋 Chapter03『邂逅』

 私の名前はエミヤシロウ。一応『抑止の守護者』の末席に名を連ねている。
 全てを救うことを目指して自分自身をまず切り捨てるような、そんな刹那的な生き方をしていた所為か、死んでからも人を救う事を強要される身となってしまった。
 人を救う事自体は私自身望むところなのだが、問題は人を救う為に人を切り捨てる事を強要される事で、そんな理想との矛盾に苦しんだ挙句の果てにかつて今の自分を目指すような愚かな事を考えていた自分自身に八つ当たりをしようと自棄になった事もあったが、かつての自分に説教されてこんな自分ではあるが誇りを持って再び理想を目指している。


 衛宮士郎との望まぬ再会から四半日ほどが過ぎ去り、窓の外を見れば既に夜の帳が降り切っていた。魔都倫敦に相応しく、深く立ち込めた霧が闇を更に深く澱んだものに彩っている。
 夕餉の準備に逃げ……いや、取り掛かっている衛宮士郎を尻目に私は窮地に立たされていた。多分、今までのありとあらゆる苛烈な戦場と比較しても遜色の無いほどに危機が迫っていた。
 「それで、アーチャー。何か言い残したいことはある?」
 遠坂、俺これからも頑張りたいんだが。
 
 
 「……それで、どうして貴方がここにいるのか説明してもらえる?」
 天使のような悪魔の笑顔で状況説明を求める凛、その背景に紅蓮に燃える炎が垣間見えるような気がするのは私の思い込みなのだろうか。しかし、如何なる状況に陥っても内面を悟られるような愚を犯すのは私の主義に反するわけで。
 「ふむ、私としても幾分疑問が残るところなのだが、どうやら召喚された様だな」
 少々大袈裟な身振りを加えて皮肉気に応える。
 「召喚された……って簡単に言うけどね、アーチャー。アンタ自分の立場がどういったものか理解して言ってるの?それともまた適当な事をいって誤魔化そうとしてる?」
 「心外だな、そういった目で見られていたとは」
 「何が心外よ。まぁ今のアンタには前の記憶が無いだろうから仕方が無いかもしれないけどね」
 「いや、それが不思議な事にあったりするから私としても疑問が残るわけだよ、凛」
 「へっ?」
 唖然とした顔で私の顔を見やる凛。何というか、そんな表情を浮かべさせた事に優越感を感じるあたり、私は性格が捻くれているのだろうか。
 
 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!冗談と寝言はTPOを弁えて言いなさい!」
 「冗談でもなく寝言でもない、厳然たる事実だ。今の私には『この世界で起こった第五回聖杯戦争』でのアーチャーとしての記憶が残っている」
 そう、不思議なことに私にはあの戦いでの記憶がある。それはつまりあの答えを持っているということだ。それ故にこれ程の好条件下であっても衛宮士郎を殺そうとは思わない……のだが、この事を奴が一切問おうとはしなかった点については若干殺意を覚えていたりする。
 「だから、そんな事はあり得ないでしょうが!その記憶を持っているとしたら…」
 「聖杯戦争を経験した『私』か座にいる本体のみ、普通に考えるならばそうなるがね」
 尤もセイバーの様に例外も存在するが、彼女の場合は厳密な意味では未だ英霊ではない。故に常に同一の存在として彼女の中に時間軸は存在するし、平行世界に違う存在として分岐して存在することも出来るだろう。だが、『座』へと登録された英霊は違う。死亡した時点で「完成」している為それ以上の変化はあり得ない。故に英霊たちにとって時間軸は存在せず、全ての平行世界において存在する彼らは同一にして全く異なる存在である。
 「だが、本体が召喚に応じるわけが無いし、私自身私が召喚された全ての記憶を保有している節は無いから本体ではないようだ」
 「じゃあ、一体アンタは何者なのよ!?」
 「ふむ……一つの仮説に過ぎないが聞いてもらえるかな?」
 そう言って一拍呼吸をおいてから私の考えた結論を紡ぐ。
 
 「前回の聖杯戦争での私の行動は、私が守護者として幾星霜にも渡り目的としてきた『エミヤシロウの抹殺』を限りなく実現させるものであった……何せ、過去の『憎むべき自分自身』と直接渡り合ったわけだからな。だが、結果としてそれは達成されないどころか目的自体の過ちを思い知らされたわけだ。そして、そういった情報は『座』にある本体へと送られる……その結果として『座』にある私自身の本体が修正されてしまった、と言うのはどうだろうか?」
 「それってちょっと都合良すぎない?大体英霊には時間軸の概念が無いし平行世界同士にも時間軸の一致は問題無いんだから、その仮説が正しいとなると世界にどれだけ歪みをもたらしたか計算するのも恐ろしいことになるわよ?」
 「む、それを言われると困るな。そもそも私が今現在ここに現界していること自体が既に無理矢理過ぎる事であるからして、それに今更いくつ歪みが加わったところで些細な問題でしかないだろう」
 「でも、問題はそれだけじゃないわよ。まず第一に今アンタが現界するのに使ってる魔力、それは何処から出てるのよ?アンタはセイバーやバーサーカーみたいに燃費が悪いわけじゃないけど、それでも士郎だけで賄えるとはとても思えないわ」
経験上そう思うけど、という凛……やれやれ。
 「本気で言っているとしたら、君も随分と魔術師としての格が落ちたものだな」
 「何ですって!?」
 「事実を述べたまでだ。衛宮士郎が単体で賄えないのなら他から持ってきているだけだろう、それが何処からか等と野暮なことをここでつらつらと語ってほしいのならいくらでも話してやるが?」
 「――――――――――!!!」
 ボッ、と言う擬音と立てて凛の顔が紅に染まる。台所の方でも何らかの反応があったようだが、興味が無いので無視する。
 「とまぁ、今現在の私の状況について判る限りのことについて『今回は』話したつもりだ。他に何か質問は?」
 「通りで昼間急に魔力がごっそり持っていかれたわけよね。まぁ今日は士郎が使い魔を呼び出すとか言ってたから、それで持っていかれたと思ってたんだけど……って、まぁ確かに使い魔の召喚に持っていったことには間違ってないし、実際問題こうしてアーチャー召喚できたわけだから魔力を持っていった事自体は問題じゃないし。……でも何で……アーチャーが私と士郎の間にパス通ってること知ってるのよ!しかも細部に渡って!! 士郎の性格からして自分から喋るとは到底考えにくいし……そう言えば、こいつアノ時ってまだ現界してたわよね…………!!」
 
 !?
 部屋の空気が急激に低下したかのように背筋に悪寒が走る。心臓は早鐘の如く躍動し、いつの間にか握り締めていた掌には驚くほど汗ばんでいる。知っている、私はこの感じを痛いほどに理解している。
 
 コレハ 『死』ノ ヨカン
 
 生前から今に至るまで積み上げた私の経験が、動物としての直感が、凛と関わる者としての第六感が。私の中にある危機を告げる全てが一瞬に、刹那に、同時に同じ答えを弾き出す。
 
 今スグ ココカラ 逃ゲロ
 
 「アーチャー?」
 「な、何かな凛。出来れば穏便な話だと凄く嬉しかったりするわけだが」
 「えっと―――――死になさい」
 凄く素敵な、『あの』別れ際の時と同じ笑顔を浮かべたまま死刑宣告下された。
 
 
 「待ちなさい!この変態覗き魔衛宮士郎!!
 「待てるか!と言うか何故に私が変態で覗き魔なのだ!?後、最後の『衛宮士郎』は私の真名なのかそれとも罵声扱いなのかどちらの扱いだ?」
 と言うわけで、今私は急に烈火の如く怒り出した凛に追われている。
 時折ガンドが体を掠める……直撃したらいくら私と言えども無事にすまないレベルの威力が込められている事について、彼女の才幹と資質を褒めるべきなのだろうか?
 「煩い黙れ素直に死ね!」
 「私に拒否権は無いのか!?」
 「そんなモノがサーヴァントにあるわけ無いでしょうが!!」
 そう言い放つなり左のポケットから何やら取り出して投げ放つ……
 おぞましいまでの死の予感に無理矢理体を捻って『それ』を避わす。
 刹那『それ』が通り過ぎた方向から物騒な破砕音が響き渡る。
 「凛……宝石は反則だと思うんだが……?」
 「問答……無用……っよ!!」
 両手に宝石をありったけ掴んで振りかぶる凛……食卓では衛宮士郎が家計簿を片手に頭を抱えている。因みにしっかり『熾天覆う七つの円環』を展開して自分と料理の安全を確保しているのがこ憎たらしい。
 「――――Welt、Ende!!」
 凛が叫ぶ、その瞬間私は繰り出される魔術の中に平行世界からのマナを感じたのは気のせいだろうか。
 
 「一体私が何をしたぁぁぁぁぁ!!」
 
 
 その後、凛の怒りを解く為に幾つもの屈辱的な命令に従わなければならなかった。
 彼女曰く「士郎は私の使い魔みたいなもんなんだから、士郎の使い魔なら私の使い魔でもあるわよね」とのこと。でもだからと言って、
 
 黒ビキニ一丁でショウダンサーさせられる程悪いことをした覚えは無いのだが。
 何か股間に紙幣がどんどん捻じ込まれているし。
 
 (凛、私は一応サーヴァントなのだが?)
 肉体を壇上にて衆人の目に晒しながら凛へパスを通じて話しかける。
 (元でしょ?今は単なる使い魔じゃない、なら主人の命令には絶対服従しなさい)
 取り付くしまもない、それどころか「もっとアピールして精々1ポンドでも多く稼ぎなさい」と発破をかけてくるありさま。因みに私の本当の主はと言うと裏方でせっせと壇上の照明を操作している……私にやたらスポットライトを浴びせるのは嫌がらせか?
 (どうでもいいが、何故私がこんなことをしてまで日銭を稼がなければならんのだ)
 (そんなこと決まりきってるじゃないか、お金が無いからだろ?)
 (原因は私には無いぞ!?)
 (でも、凛がお前が悪いって言うんだから仕方ないだろ……まぁ頑張ってアイツの気が晴れるぐらいに稼がないとな)
 
 
 (……了解した、地獄に落ちろマスター)

後書き

 構想0分執筆4時間、相変わらずの無計画性は修正出来ず。
 結局何を書きたかったのか、こうやって後書きを書きながらも今一つ理解していなかったりする。多分、アーチャーと凛の会話が書きたかったんだろうな……その所為ですっかり士郎の存在を忘れていたのは若さゆえの過ちだと思う。
 相も変わらず暴走気味な本作、今後も気力が充電出来次第ぼちぼち続けていこうと思うので、お暇な方はたま〜にチェックしてくれたりすると嬉しかったり。