誇り高き掃除屋

元ネタ:Fate/stay night 設定:凛TE

誇り高き掃除屋 Chapter04『正義』

 平和を脅かす、ただ其れだけを存在理由として生を受けたモノ。他を虐げ、苦しめ、滅することのみを求めるよう創られたモノ。人はそれを悪と呼び、忌み嫌う。
 平和を守る、ただ其れだけを存在理由として生を受けたモノ。自身を削ってでも虐げるモノあらば打ち払い、苦しみを消し去り、滅するモノを滅することのみを求めるよう創られたモノ。人はそれを正義と呼び、畏敬を払う。
 同じ世界に生を受け、同じ時間を過ごしても、両者はその存在理由故に決して判り合う事は無く、互いに死合う事を宿命められている。
 正義にも悪にも目的は無い。他人を苦しめる、或いは救うということは目的ではなくこれらを相対的に表現する一手段に過ぎない。目的が無い概念上の存在だからこそ、正義や悪といった存在が成り立つわけであり、逆説的に言うならば目的を持った時点で、正義も悪も理想から転げ落ちて凡俗の思想に成り果てる。尤も、凡俗であるからこそ目的を果たすことが出来るのであり、理想は理想のままでは目的を果たすことは出来ない。否、何が目的かも定まらない。正義や悪を絶対的な理想とし、其を体現すべく歩めば理想を捨てるか叛くことになるのは、その存在からして必須ということになるだろう。


 だが、人は己を信じながら騙すことの出来る唯一の存在である。己の矛盾に目を瞑り他人の矛盾を暴きたてることの出来る無二の存在である。だからこそ、人は『全てを救う正義の味方』にも『全てを滅ぼす悪の魔王』にも成り得る。
 しかし、それでも人は自分だけを騙して生きていく事は出来ない。自分を騙し、相手を騙し、世界を騙すことが出来なければいずれ破綻する。そして、古今東西破綻せずにいられた正義或いは悪の体現者は存在しない……



 「つまり、『正義の味方』などと言うくだらぬ存在は己の中でしか成立せず、それを万民に等しく認めさせることなど不可能。それは歴史で既に証明されていることだ。」
 アーチャーの声が伽藍とした空間に響く。
 「キリストもマホメットも、ジャンヌ・ダルクもフリードリヒ・バルバロッサも、自らを正義として己を削って他人を救わんとした。確かに彼らは英雄で、偉大であることには間違いは無い。だが、その裏では常に虐げられるものは存在していた。」
 言葉と同時に繰り出される左右からの斬撃。干将を受け止め莫耶を避ける。
 「正義の味方を目指す、それ自体は結構なことだ。理想を体現する、それもまた上等。だが、『どうやってそれを為す?』」
 避けられた莫耶の勢いを殺さず、軸足を入れ替えて背後へと回り込もうとするアーチャーへ投影した剣を射出して妨害。
 「前にも言ったが、何かを救うことは何かを救わないことだ。全てを救う正義の味方などこの世には存在しない。それでも尚、貴様が正義の味方を目指すのであれば問おう。」
 干将を受けた剣は既に半ばから折れ、存在が希薄になっているので之を放棄。
 「貴様の目指す正義の味方とは一体何なのだ?」
 更に剣を射出しつつ距離をとる。
 「私は答えを得た。お前はどうなのだ、衛宮士郎。」
 鷹の目と評される鋭い視線が、俺のカラダを射抜く。



 「俺は……」
 己の中から答えを探す、矛盾だらけの理想に答えを求める、継ぎ接ぎだらけの心で答えを導く。
 「まだ、答えを出すことは出来ない。だけど……」
 アーチャーの言うことは正しい、それは認めなければならない。この世には正義の味方は存在しない。
 「目指すべき、正義の味方を示すことは出来る!」
 だが、俺は贋作者。自分を騙し、相手を騙し、世界を騙して剣を鍛つ剣製の魔術使い。
 「ほぅ……それは衛宮切継か?それともセイバーか?よもやこの私を挙げるつもりか?」
 馬鹿言え。親父じゃアイツには届かない、セイバーじゃ全ては救えない、ましてアーチャーでは俺自身にも勝てやしない。ならば、どうするか?
 「その誰でもない――いや、俺の正義の味方はそもそも存在しない。」
 答えは一つ、全てを凌駕するモノを複製る―――――!


 創造の理念を鑑定――――正義の味方として生を受け、
 基本となる骨子を想定――他人の喜びを己の喜びとし、
 構成された材質を複製――自身を削ることも躊躇わず、
 製作に及ぶ技術を模倣――幾度倒れても諦める事無く、
 成長に至る経験に共感――ただ一撃を以って敵を討ち、
 蓄積された年月を再現――己が目に入る全てを救った。


 ――あらゆる工程を凌駕し尽くし、ここに幻想を結びケンと成す!


 「これが―――答えだ!!」
 幻想を上乗せた右腕を、ただ真っ直ぐにアーチャーへと突き出す!


   アン・パンチ
 『輝ける黄金の鉄拳』



 「―――それで、思いついた正義の味方がよりにもよって『怪奇・アンパン男』だったわけ?」
 「仕方無いだろ、俺の知る限りアイツに反論出来る正義の味方がそれしか思いつかなかったんだからさ。」
 呆れた様子で返してくる遠坂、いや俺も自分で言ってて厳しいことぐらい判ってるけどさ。
 ……昼間、何気無く始めたアーチャーとの戦闘訓練。昼食後の腹ごなしのつもりだったのだが、気が付いてみれば日はとっぷり暮れるまで延々戦い続けていた。何というか、アイツと勝負するとお互い引くに引けなくなってしまう。今度から気を付けよう。
 「大体、何で剣以外を投影してるのよ。自分の属性ぐらいちゃんと把握してるわよね?」
 「むっ、ちょっと問題あるかも知れないけど十分可能な範囲内だと思うぞ。読みも『ケン』な訳だし。」
 「―――いや、そんな風に言われても困るんだけど。」
 「何がさ?」
 「そんな駄洒落で―――って、もういいわよ。多分、言っても無駄だと思うし。」
 何がいいのかは知らないが、納得したようなので突っ込まないでおく。
 ―――そうしてしばらく黙っていると、ふと何かを思いついたのか遠坂がいたずらっぽい笑みを浮かべて、
 「それで、どっちが勝ったの?士郎?それとも―――ん!!」
 最後まで言わせずに、無言で唇を奪う。流石に二人きりの時にいつまでもアイツの事を考えさせたくない。
 そのまま四肢を絡ませてベッドへと倒れこむ―――


 (未熟だな衛宮士郎。)
 レイラインを通して何か思考が流れ込んでくるが無視、負け犬の遠吠えという奴に違いない。
 (まぐれの一撃でたった一本とって、いい気になられても困るわけだがな。)
 五月蝿い、いいところなんだから邪魔するな。
 (そうは言われてもな、見るなといわれて誰も見ないのならば世の中に覗きは居ない―――そうは思わんか?)
 思わん。だから覗くな。と言うか、これ以上覗くなら誰にとは言わんがチクルぞ。
 (全く、自分の力でどうにかしようとは思わんのか。仮にも貴様は男だろう?)
 返事は?
 (―――了解した、地獄に落ちろマスター)
 それはこっちの台詞だ、『負け』アーチャー。

後書き

 GoodToSeeYouさんのDiary05/07/11を読んで反射的に書き上げた作品。まぁ、『我が身を削ってでも他人を救う正義の味方』で『愛と勇気だけが友達』なのは確かに衛宮士郎がよく当てはまる。要はアレだ、『馴染む!馴染むぞぉ!!』と言った感じ。
 まぁ個人的にはJanne Da Arcの「救世主―メシア―」も捨てがたいとは思うのだが、士郎的には「アンパンマンのマーチ」なんだろうなぁ。理想は高いが、方法が短絡的過ぎる点で。バイキンマン≒言峰相手なら兎も角、普通の世界じゃまず居ないだろうしな。悪そのものを体現するような輩って。だからこそ、アーチャーも磨耗して捻くれるわけだし。

どうでもいい設定

  • 宝具『輝ける黄金の鉄拳(アン・パンチ)』
    • ランク :B+
    • 種別  :対人宝具
    • 最大補足:一体
    • 説明  :彼の有名な正義の味方が用いる自らの名を冠した技、己が全力を拳に乗せて不可避の一撃で敵を討つ。別名右ストレート。正確には宝具では無く技なので、士郎は『英雄が生涯用いたグローブを投影』→『そこに蓄積された経験を憑依』→『技を発動』と言った過程を経て放っていたりする……右ストレート一発放つのに随分と手の込んだ事で……