Fate昔話・桃太郎

元ネタ:Fate/stay nighthollow ataraxia+桃太郎

Fate昔話・桃太郎

生誕――体は剣で出来ていた

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがありました。
 
 「ちょっと待ってください、何で私がお婆さんなのですか!!」
 「まぁまぁセイバー、僕だってお爺さんなんだからさ。」
 「キリツグは年齢的にも微妙ですから別に何とも思わないかもしれませんが、私は見た目からして15歳ですよ!?これで年寄り呼ばわりされる謂れはありません!!」
 「でもFateのヒロインは元より女性陣の中でも、実年齢は一番上……」
 ちゃきっ。
 「――――何か言いましたか、キリツグ?」
 「……いやぁ、ははははは……セイバー、剣を下げてくれると嬉しいかなぁ。」
 
 ………どうやらお婆さんではなくお姉さんとしておいた方が良さそうです。
 
 まぁ兎も角、毎日お爺さんは世界中へ魔術師狩りに、お姉さんは近くの川へ鍛錬に行きました。
 ある日、お姉さんが川の側でせっせと日課の素振りをしていますと、川上から大きな剣が一つ、
 
 『  体は剣で出来ている       血潮は鉄で、心は硝子。
  I am the born of my sword. Steel is my body, and fire is my blood.
 
    体は剣で出来ている       血潮は鉄で、心は硝子。
  I am the born of my sword. Steel is my body, and fire is my blood.』
 
 と流れて来ました。
 「おぉ、これは素晴らしい剣ですね。キリツグが気に入るかは判りませんが、私の佩刀には相応しい。ここは一つ持って帰るとしましょう。」
 お姉さんは、そう言いながら水上を歩いて剣の方へと近付こうとしましたが、不思議な事にお姉さんが近付く程に剣は遠ざかっていき、手が届きません。お嬢さんはそこで、
 「ふむ、剣の分際で生意気ですね……ここは一つ、どちらが主でどちらが従がはっきりさせるとしましょう。」
 と言いながら、腰から光り輝く剣を抜きました。すると剣はまた、
 
 『ただ一度の敗走は無く、ただ一度の勝利も無し
   Unaware of loss.   Nor aware of gain.
  ただ一度の敗走は無く、ただ一度の勝利も無し
   Unaware of loss.   Nor aware of gain.』
 
 と言いながら、お姉さんの前に流れてきました。お姉さんはにこにこしながら、
 「ふむ、随分と聞き分けの良い剣ですね……しかし、聞き分けの良い剣というのも妙な話だ。これは家に帰ったらキリツグに調べて貰ったほうが良いかもしれないですね。」
 と言って、不思議な大きな剣を拾い上げると、素振りで使っていた剣とまとめて担いで、軽々と抱え上げて衛宮邸へ帰りました。
 
 それから暫くしてやっと、お爺さんは魔術師狩りの報酬を受け取って帰ってきました。
 「セイバー、今帰ったよ。」
 「あぁ、キリツグ、遅かったですね。少々調べて貰いたいものがあるのですが、宜しいでしょうか?」
 「ん?何だい、調べて貰いたいものって。」
 そう言いながらお爺さんが居間へ向かうと、お姉さんが台所の方から先程の剣を軽々と抱えてきて、
 「いえ、この剣なのですが。」
 「へぇ、剣の事は良く知らないけど、そんな僕にも判るぐらいに良い剣じゃ無いか。こんな名剣、何処からかっぱらって来たんだい?」
 ちゃきっ、びゅおう!
 「……キリツグ、貴方が私の事をどう考えているか良く判りました。」
 「……ははは、軽い言い間違えじゃないかセイバー。僕は『何処で貰って来たんだい』と言おうと思ったんだよ。それと、首筋ギリギリに刃を奔らせるのは人としてどうかと思うよ。」
 「まぁ、そういう事にしておきましょう……それでですね、この剣ですが譲渡されたのではなく、川で素振りをしていると上流から流れてきたものです。それを拾ってきたのですが……」
 「上流から流れてきたって?セイバー、からかわないでくれよ。こんな鉄で出来た剣が水で流されてくるわけ無いじゃないか。それともやっぱり誰かからかっぱr――――うん、それは随分と不思議な事だね。」
 お爺さんはとうとうお姉さんが犯罪行為に走ったと思ったようですが、首筋に剣を突きつけられたので仕方無く彼女の言い分を肯定することにしました。
 「そうでしょう、ですのでキリツグに調べて貰ったほうが良いのでは無いかと思って、こうして見せているわけです。」
 「成る程、そういう事かい。それじゃ、調べてみるとしようか。」
 お爺さんは剣を両手で抱え込んで、振ったり叩いたり、構えてみたりしていますと、出し抜けに剣がガチリと中から二つに割れて、
 
 「……とりあえず、叩いたり振り回すのは止めてくれって。」
 
 と勇ましい産声?を上げながら、赤い髪をした男の子が元気良く飛び出してきました。
 お爺さんは軽く笑いながら、お姉さんは心配しながら、男の子へ声を掛けました。
 「あぁ、ごめんごめん。まぁ男の子だから大丈夫さ」
 「えっと、大丈夫でしたか?」
 「あ、うん。たいした事は無い。ちょっと頭がクラクラするけど。」
 どうやら、剣の中から男の子が出てきたこと自体には特に驚く様子は無いようです。
 男の子曰く、名前は士郎。苗字や出自は記憶に無いそうです。それは可哀相なので、お爺さんとお姉さんは彼を家に迎え入れることにしました。
 「それでシロウ、貴方はこれから私のマスター……じゃなくて、弟という訳ですが、問題無いですか?」
 「う〜ん、親父は兎も角、セイバーがお姉さんって言うのはちょっと慣れないかも……と言うか、姉?母親じゃなくて?」
 「お婆さんは流石に嫌だそうだよ、でもヒロインの中で一番年m」
 ばきっ。
 「キリツグはちょっと静かにしてください……慣れてもらわないと困ります、一応これからは家族なんですから。」
 「うん、判った――――宜しくセイバー。」
 
 何はともあれ、男の子はお爺さんとお姉さんの元で、大切に、それはもう厳しく、育てられる事になりました。時に男の子の名前ですが、「剣から生まれたから『剣士郎(ケンシロウ)』はどうだい?強そうだと思うんだけどな。」とお爺さんは強く主張したのですが、お姉さんと士郎くんの猛反発により素直に『衛宮士郎』と名付けられたそうです。まぁ、今更ですけどね。


 お爺さんとお姉さんは、それはそれは大事にして士郎を育てました。士郎はだんだん成長する(残念ながら身長については人並み以下でしたが)につれて、当たり前の人々とは違った力を発揮するようになりました。それは魔術と呼ばれる力で、士郎は物を見るだけでその構造を把握したり理解する事が出来、更にはそれを魔力で強化したり複製したりすることが出来るようになりました。尤も、何故か刃物に関係するじゃないと上手くいかないという制限はありましたし、お爺さんの懸命の努力にも関わらずそれ以外の魔術はからっきしだったりもしましたが。
 また、お姉さんの指導の元で士郎は剣術を主体として体を鍛え上げられました。元来の性格に沿ったものなのか、はたまたお姉さんが怖かったからなのか、士郎はお姉さんが目を見張るほどの努力と成長(身長は余り伸びませんでしたが)をみせ、流石にお姉さんには全然適わないものの、近所の村の子供達の間では適うものは一人も無いぐらいでした。殊、弓に至っては『衛宮士郎が弓引けば、必ず当たる外れ無し』という程評判は高く、遠方からそれを見物しに負け惜しみが多い若布の御公卿様や武芸十八般を修める御武家様の御令嬢がいらっしゃるほどでした。
 特別な力を持ち、腕も人並み以上に立つ士郎でしたが、そのくせ性格は温厚で人助けが趣味と言うか生き甲斐というちょっと変わった人柄なものですから、お爺さんもお姉さんにもよく孝行をしました。尤も二人ともそんな士郎に感謝しながらも、他人を優先して自分の事を一番後回しにするその生き方に、少なからずの不安を抱いたりしていましたが。
 そうして士郎が拾われてから10年が過ぎました。
 その頃から、士郎は何かを追い求めるように人助けをするようになりました。東に山賊が居れば懲らしめに行き、西に辻斬りが出れば捕まえに行き、南に嵐が襲えば田畑や住居の復興を手助けし、北に雪崩が起これば進んで誰よりも雪を掻きわけました。
 するとそんな折に、あちらこちら外国の島々を巡って出稼ぎをしていたお爺さんが帰って来ました。お爺さんから旅の話を聞くのが好きな士郎は、この時もいつものように土産話をお爺さんにせがみました。お爺さんも士郎が喜ぶ姿を見るのが楽しみなので、いつものように見聞きした珍しい話を語り聞かせていました。

 その話の中で、
 「そう言えばね、遠い遠い海の果てに鬼ヶ島っぽい場所があって。そこでは悪い鬼達が胡散臭い石造りの建物に住んでいて、周りの人々を絶望させたりあちこちから取り立てた宝石とか聖杯とかを溜め込んだりしているらしいよ。」
 という話がありました。それを聞いた士郎は『胡散臭い建物ってどんなのさ?』と思ったりしましたが、どうやら鬼達が人々を少なからず苦しめているらしい事を理解すると、もう居ても立ってもいられなくなりました。そこで、夕食後にくつろいでいるお爺さんとお姉さんを前にして、
 「親父、セイバー。悪いけど、暫く旅に出たいんだ。」
 と言いました。その言葉にお姉さんはびっくりして、
 「シロウ、旅に出るとはどういうことですか?後、シロウが居ない間は誰がご飯を作ってくれるのですか!?」
 と主に後半に力を入れて、士郎を問い詰めました。どうやら、美味しいご飯を食べられなくなる事が心配でならないようです。
 「鬼ヶ島へ行きたいんだ。親父の話だと、鬼が悪い事をしてるんだろ?それで困っている人が居るなら、俺はそんな人たちを助けたいんだ。後、悪いけど俺が居ない間は頑張って自炊してくれ。」
 と士郎は答えました。お姉さんは士郎の言葉の意味を理解すると『じ、自炊……それは……』と項垂れました。お姉さんは美味しいご飯を食べるのは好きですが、美味しいご飯を作るのは苦手だったのです。
 そんなお姉さんとは反対にお爺さんは、
 「そうか、士郎が決めた事なら仕方が無いね。それじゃまぁ、怪我をしないように気を付けてね。」
 と気軽な様子で士郎を励ましました。
 「しかしシロウ、鬼ヶ島という場所は遠いのではないでしょうか?そんなところへ行くには糧食をしっかり持たないと途中で行き倒れてしまう。遠征するには、保存の効く食べ物を準備していかないと。」
 とかつて軍を率いては常勝だったお姉さんが言いました。確かにその通りなので、士郎は台所へ向かうと常温でも数ヶ月は持つような食べ物を準備し始めました。また、自分の勝手で旅立つのですから、お爺さんやお姉さんの分もしっかり準備する辺りは彼の彼たる由縁でしょう。無論、舌の肥えたお姉さんが文句を言わないように量も種類も十分作り置きしました……気が付くと、持って行く分を遥かに超えた量の保存食品が山を成していました。尤も、士郎は『……これで何日かは持つかな?』と不安気でしたが。
 とりあえず、黍団子を筆頭にした保存食品の山から自分に必要な分を取り分けて出立の準備を整えようとすると、お爺さんが土蔵の中から様々な旅の必需品を準備してくれていました。普段はいい加減なお爺さんですが、流石に旅慣れているのかそれは家事万能の士郎でも驚く程の手際の良さでした。
 結果、士郎は動き易い旅装束に、保存食品を中心とした旅先で必要なものが詰まった袋をぶら下げ、腰にはお姉さんの愛剣を模した一振りの剣を佩き、お爺さんから押し付けられたコルト・シングル・アクション・アーミー.45(通称:ピースメーカー)を懐に仕舞い込みました。
 そうした旅の準備の最中に、お爺さんは士郎へぽつりぽつりと昔の事を話し始めました。お爺さんが自分の過去を語るのは珍しい事です。いつも士郎が聞いた時は冗談ではぐらかして本当の事を言おうとしなかったので、自然と士郎も真面目にお爺さんの話を聞き入りました。
 
 「僕はね、昔は正義の味方を目指してたんだ。士郎が憧れるような、皆を救う正義の味方。そこに居るだけで誰もを救えるような、ね。」
 お爺さんが語るのは、昔の自分の話でした。誰かを救う為に戦って、自分を犠牲にして、少なからずの人々を助けて――――それでも、全てを救うことは出来なかった……そんな自分の半生。
 「目指してた……って、諦めたのかよ親父。」
 士郎は少し不服そうです。尤も、自分の目標であるお爺さんが、自分の理想である『正義の味方になる』ことを諦めたという話ですから、無理もない事ではあります。
 「うん、正義の味方ってヤツは期間限定でね……大人になると名乗りにくいんだ。そんな事、よく考えれば判りそうな事だったんだけどね。」
 苦笑混じりにお爺さんは答えます、その顔は本当に残念そうでした。叶うならば、成れるならば、今からでも夢を叶えたい――――そんな思いが直接伝わってくる寂しげな笑みを浮かべていました。
 「あぁ、そうなのかもしれない――――それなら、しょうがないよな。」
 「うん、本当にしょうがないよ。」
 顔を見合わせ笑い合います、いつものように、当たり前のように。
 ……そして二人は暫く笑った後、何事も無かったように旅支度を整えました。
 
 数刻の後に、準備を整えて玄関前に立った士郎は、
 「親父、セイバー、本当に無理を言ってすまない。」
 といって、見送る二人へ丁寧に頭を下げました。
 「うん、士郎も体に気を付けてね。」
 「シロウ、行くからには鬼とやらに負ける事は許しませんよ。」
 とお爺さんとお姉さんから激励され、士郎は、
 「判った、期待に応えられるように頑張る。これでも魔法使いと騎士王の一番弟子だからな、恥ずかしい真似はしない。」
 と言って、
 「それじゃ、悪いけど行ってくる!」
 と元気な声を残して出て行きました。
 お爺さんとお姉さんは、門の外に立ってその姿を見送っていました。
 二人の脳裏にはこの10年の生活――――士郎が作ってくれた料理、士郎が素振りをする姿、士郎が魔術の習得に苦戦する様子、士郎が人々の為に駆けずり回る風景――――そんな出来事が走馬灯のように駆け巡っていました。
 「……親父!」
 ふと気付くと、士郎が立ち止まって振り返り、こちらへ声を掛けています。
 「なんだい士郎?」
 「親父の夢――――俺が代わりに果たしてやっから!」
 そう叫ぶと、再び士郎は歩き始め……今度はもう振り返りませんでした。
 「そうか―――――安心した。」
 「キリツグ……?」
 お爺さんとお姉さんは、士郎の姿が段々小さくなり見えなくなっても、いつまでも見送っていました。
 ――――お爺さんの眼からは、すぅっと静かに涙を零れていました。

後書き

 とりあえず、桃太郎を元にしたFate/stay night
 多分、中編ぐらいの分量になるはずなんだけど……何だかどんどん文字数だけが膨れ上がって全然話が進まないのは何故に!?(A.俺の力量不足)一応、俺にしては珍しくプロットを先に考えていたりするのだが……尤も、書き進めていけば必ず筆が暴走するから最初に立てたプロットなんて最終的には関係無くなると思ってみたり。
 まぁ何はともあれ、気長に見守ってくれると嬉しかったりする。