誇り高き掃除屋

元ネタ:Fate/stay night 設定:凛TE

誇り高き掃除屋 Chapter01『召喚』

 突然の浮遊感、幾度繰り返そうとも慣れる事は無い妙な喩え様の無い感触。
 私はこの感触が嫌いだ――――何故ならこれは、絶望へのみ至る片道切符なのだから。
 強制的に送り込まれる情報が胸の古傷を深く抉る。そこにはヒトという種族の傲慢が、醜悪が、悲哀が、狂気が、悪意が、独善が、そして絶望が溢れん限りに詰め込まれている。
 皮肉な事に私がこれからすべき事は、それらを救うことではなく切り捨てる事。
 不治の致死性伝染病者を隔離し死に追いやるように、絶望に嘆くモノ達をこの手で葬りさるのが「抑止の守護者」と呼ばれる私の役目である。
 
 かつて私はヒトを救うことを望んでいた。
 そう、全てを救う道を求めていた……いや、それしか望むことが出来なかった。
 何故なら他の望みを持つことが出来ぬほどに私は壊れていた……尤も、今も尚壊れ続けているのかもしれないが。
 ヒトとして当然持つべき自己愛が、客観視が私には致命的に欠けていた。他人から見れば独善という言葉すら生温い程に自己を省みず他人を救う為に剣を振るい続けた。
 しかし、所詮は万能ならざるヒトの身。
 何かを得ようともがけば、何かしらの代価を差し出さなければならなかった――――今から考えれば当たり前の事だ。誰かを救おうとすれば、他の誰かを傷つけることもある。誰か一人が幸福になれば、別の誰かが悲しみにくれる時もある。
 我らが愛すべき世界は、そしてヒトの世は予め定められた数しか椅子を用意しておらず、往々にしてその椅子の所有権は自らの意思以外の何かによって左右される事が多い。
 必然にせよ偶然にせよ、その座から漏れたモノが顧みられる事は無く、ただ黙して境遇に甘んじるか自らを切り捨てたモノたちに牙を剥くか、その強制的な二択を選ばされる。
 しかし、私はそういったこの世界の現実に直面させられても尚、自らのみを犠牲の羊として捧げてでもヒトを救い続けた。遂には自らの生のみならず自らの死後をも捧げてまでヒトを救い続ける事を選んだ。
 ……そうすればいつかは、全てを救うことが出来ると信じて。
 
 だが現実はいつも残酷であり、私が望んだことは遂には叶えられる事は無く、未来永劫過去永劫に渡ってヒトを救う為にヒトを切り捨てる作業を繰り返す存在へと成り果てた。
 挙句には積極的に救うことが出来ないモノを切り捨てて、救うことの出来るモノを救うセイギノミカタとして自らを律し、流れる血と涙で剣を染めてただ只管に絶望の戦場を駆け巡った。
 そんな自分の有様を嘆いていた、憎んでいた、呪っていた。
 遙かな過去に全てを救えると思い込んで「正義の味方」とやらに入れ込んでいた自分自身を憎悪した。いつしか、自らの憎む余りに自分自身の存在の消去を望むまでに至った。
 自分で自分を殺す、上手く行けば「正義の味方」になろうとする愚かな男が消えるのではないかと僅かな望みに狂った事もあった。
 
 だが過去の自分の一人と対面した時、自らの敗北を彼は知った。
 『決して間違いなんかじゃない』
 過去の自分は、理想を否定する理想の体現に向かってそう言い切った。
 単純に戦力比で言えば負けるはずの無い闘い。何故なら「セイギノミカタ」となった自分が「セイギノミカタ」を目指す自分に負けるはずは無いのだから。
 だが、負けた。力で勝っていたにも拘らず、心で既に敗北していた。
 何故なら、結局のところ何処まで自分自身を否定しようにも否定し切る事が出来なかったから、ならば自らを絶対なまでに肯定する過去の自分に勝てるはずは無かったのだ。
 
 そう、例え間違っていようとも間違ってなどはいない。ならば、私はもう振り返らずにヒトを救うのみ。例えその先に何も無くても、構う事は無い。ただ救いたいから救うだけ。当時の私は……といってもこの身に時間の概念など無いが……そんな単純な事すら忘れるまでに磨り減っていたのかと愕然としたものだった。
 
 そして今もまた、絶望の満ちる世界へと私は降り立つ。
 ヒトを守る為にヒトを切り捨てるこの身なれども、救えるモノは救わんと心に誓いを立てて。
 
 
 
 「……それで、だ。幾つか質問があるのだがいいかなマスター」
 「……何だよ?」
 「ふむ……言いたい事は山ほどあるわけだがな、その中で可及的速やかに片付けるべき問題となると……」
 私は周りを見渡す。
 灯りに乏しく薄暗い石造りの建物……空気の淀み具合から判断すると地下室のようだ。
 其処等彼処に散らばっているのは恐らくは何らかの魔具だったものの成れの果て、残留している魔力からしてそれなりに名のある物だったのだろう。
 足元に記されているのは魔法陣。それ程造詣が深いわけでは無いが、「結果」から鑑みるに召喚用なのだろう。
 そして、目の前にいる一人の男。私を召喚したからには魔術を修めている者である事は間違い無い。
 要するに、私は使い魔として呼ばれたであろう事が推測される……まぁ、目の前の男とパスが繋がっている以上確定している事項ではあるのだが。
 
 しかし、幾つか疑問が残らないわけではない。
 まず第一に私が召喚されたにも拘らず霊長の危機だとか聖杯だとか、そういった超越的な存在の気配が感じられないこと。断言するにはまだ情報が足りないが、今手元にある情報から判断すると本当に使い魔として召喚されてしまったのかもしれない。一応私は「抑止の守護者」の端くれだったと思うのだが、これも抑止力が働いた結果なのだろうか?
 (だとすれば随分と抑止力とやらも守備範囲が広がったものだ……)
 次に私に注ぎ込まれる魔力の量と質……意外なことだがそれ程問題は無い。
 量についてはかなり文句が残るところだが、一介の魔術師としては十分すぎる量であることには変わりない。これ程の量を目の前の男が供給していることが疑問であるが、それも何らかの手段を以ってして補っているのだろう。だとすれば、魔術師としての資質はともかく技量についてはかなりのものなのかもしれない。
 他に、気になることは幾つか残っているが、此処が何処なのかだとか今が何時なのかだとか、些細な優先順位の低いことばかりなので黙殺する。
 
 ……ふぅ、OK。現状は認識した。
 後は最も重大な疑問を目の前の男にぶつけるだけだ。
 いや、向こうも同じ考えなのかもしれんが。私としたところで幾星霜に渡り積み重ねてきた経験の中でもこういった事は無かったのだから、僅かに四半世紀に満たない経験しかないのならば余計に現状に対して疑問を持たざるをえないだろう。
 
 「何故お前が私のマスターなのだ、衛宮士郎!!」
 「それはこっちの台詞だ、アーチャー!!」
 
 私の言葉に、衛宮士郎が応える様に叫び返す。
 ……神よ、もし存在するならば一発殴らせてもらいたい。

後書き

 とりあえず、見切り発車的に始めてしまった『誇り高き掃除屋』。
 設定もプロットも固まっていない上に連載になりそうな予感……ちゃんと終わらせることが出来るのか俺。

  • 「舞台は倫敦で、アーチャーは「答え」を得ている」
  • 「士郎が何故かアーチャーを召喚する」

 これしか決定事項が無いのは正直どうなのだろうか、適当設定(゜ε゜)キニシナイ!!
 とりあえず、ほのぼの5:コメディ3:シリアス2ぐらいの割合で気楽に書いていこうと思うのだが……の割には今回シリアスな文章で占めまくってるなぁ。
 まぁ、気の向く時に徒然なるままに書いていこうと思う。