誇り高き掃除屋

元ネタ:Fate/stay night 設定:凛TE

誇り高き掃除屋 Chapter02『剣製』

 前略、私はエミヤシロウ。一身上の都合で「抑止の守護者」などという因果な仕事に就いている。守護者などと呼ばれれば聞こえがいいが、要はヒトの仕出かした災厄の後始末をする掃除屋に過ぎない。
 こんな路を選んでしまったが故に普通に暮らしていれば絶対に見ないような最悪の状況というモノを幾度と無く数え切れぬほどに出会っては対処に追われる毎日、お陰で過去の自分を見つけたら殺してでも止めてやりたいと考えていた時期もあった。
 まぁ、今となってはそんな考えも『若さゆえの過ち』と達観出来る位には人間ができたつもりだったのだが……
 
 
 「つまりは、お前は使い魔を召喚しようとしていたわけだな」
 「だから、最初からそう説明してるだろ」
 ……やはり、一発ぐらいは殴るべきかもしれん。
 
 
 「いや、余りにも信じられない話なのでな。何処の世界に使い魔を召喚しようとして守護者を降ろしてしまうようなわけの判らん手違いをする奴がいると思う?」
 しかも、よりにもよって私を態々喚び寄せるとは。
 「なんだよ、俺が悪いとでも言いたいのかよ!?」
 「悪いとまでは言わん……が、才能が欠片も無いぐらいには受け取っておけ。
  所詮衛宮士郎には剣に纏わる事以外の魔術の才など無いに等しい」
 「そんなこと、やってみなけりゃわからないだろ?」
 「やったことがあるから言っているのだろうが。忘れたか?私が一体何者なのかを」
 「うっ……でも、俺とお前とじゃ」
 「そう、確かに別人だ。だが、根本的な部分は同じだからな。そうでなければアレを使いこなすことも出来ないだろうし、そもそも今現在私を喚び寄せるような事はありえない」
 守護者や英霊人為的に召喚するには、その対象と縁が繋がっている必要がある。
 大抵の場合は対象となる人物の遺物などを用いるのだが、衛宮士郎に限って言えば無条件でその縁となりえる。何せ、私という「ある未来における自分自身」が守護者として座に位置している以上は他に優先事項が無い限りは自動的に私を喚び寄せてしまう。
 (つまりは、凛よりも先にこの男がサーヴァント召喚を行っていれば私が喚ばれていたということか……考えるだに寒気がするな)
 まぁ、剣という属性と『全て遠き理想郷』のオリジナルという深い縁がある限りは私とセイバーとで確率は五分五分といったところかも知れんが。
 
 
 「……ともかく、お前が仮に使い魔を召喚しようとしていた事にしたとしても、だ」
 「仮にはって何だよ、仮にはって」
 「煩い、黙って聞け。……召喚しようとしていたとして、ならばこの召喚陣は何だというのだ?これでは英霊か守護者を呼び寄せようとしていたとしか考えられんぞ?」
 そう、足元に広がる召喚陣……それ自体は緻密に正確に描かれた幾何学模様であり、人によっては芸術的な価値を見出せるかもしれないほどに完成された『作品』といえるのかもしれないが……これの意味するところは「座に至りし天秤の守り手の召喚」具体的には冬木での聖杯戦争におけるサーヴァントを召喚する為のモノである。
 
 「それに、周りに散らばっている魔具の数々。詳しくは知らんが何らかの増幅的な要素を持っているものばかりのようだ。そんなものを積み重ねて使えば、己の制御を超えたモノを召喚してしまってもおかしくはあるまい……そもそも使い魔とは己が現在制御できるレベルのモノを喚ぶのが一般的なはずだ。それを捻じ曲げてまで魔術を行使しようとするから、私を喚ぶような事態を招くのだ」
 「いや、別に俺だってお前を召喚したくてこんな事をしたわけじゃないぞ?」
 「だったら何故こんな英霊の座に繋がる大掛かりな召喚陣を用いたのだ……よもや、セイバーを喚ぼうとしたなどという世迷言を吐くつもりではなかろうな?」
 「それこそありえない、そんな事出来るはずも無いし……大体にしてそんな事をしたら……カニヤラレル」
 何やら語尾が小さく聞こえ辛かったが、どうやらセイバーを喚ぼうとしたわけでは無いらしい。しかし、ヤラレル……「遣られる」、いや「殺られる」だろうか。
 
 「では、一体何を喚ぼうとしていたのだ?」
 「……ああ、それならこれだ」
 そう言って衛宮士郎が差し出した本には幾振りの剣が描かれていた。その全てが違う形をしており、共通する点とすれば柄の中央に大きな宝玉らしきものが象嵌されていることだろうか。
 「Swordian?一体何だ、これは」
 「いや、改めて『何だ』と言われてると答えに困るんだが」
 読めば判る、と。何やら答えにくいモノであるらしい、となると自分で答えを探すしかあるまい。仕方なく受け取った本を読み進めることにする。
 どうやら、創作の英雄譚であるようだ。ある田舎の青年が一振りの剣と出会うことにより世界の運命を左右する陰謀に巻き込まれていく……少し我が身を振り返るような内容だが、問題はそこには在るまい。
 そうして読み進めていくうちに、一つ気になる描写を見つけた。
 「意思を持つ剣……これはどういうことだ?」
 しかも、ただ持ち主を己を採る足るか判断するようなレベルではなく、はっきりと人格を持っている。しかも如何なる方法か判らないが『資格』のあるものとならば会話すら可能である。
 しかも、それだけに止まらず使い手は剣の属性に対応した一種の魔術のようなものを取り扱えるとまである。
 ……なるほど、理解した。
 「……一応確認のために問うが、お前が召喚しようとしていたのは若しかしてこの『意思を持つ剣』なのか?」
 「……そうだけど」
 
 
 すぱこ〜ん!!
 
 
 衛宮士郎が戯けた事を抜かすや否や、反射的に手に持った本を丸めて頭をはたく。
 良い感じな音がしたので、僅かながら溜飲を下げる。
 「何もいきなりはたくことは無いだろ!」
 「いきなりでも何でも叩きたくもなるわ、ど阿呆が!こんな夢物語様なものを本気で召喚しようとなど考えていたのか!?」
 「いや、だって剣で意思を持っているって辺りがそこはかと無く俺の属性と一致してるし」
 「一致していようがいまいが、こんな現実離れしたものを召喚できるはずが無いだろうが!例え仮に出来たところで直に世界からの修正で消え去るわ、愚か者!」
 「む、そんなことはやってみなければ判らないだろ!」
 「やらんでも判るわ!」
 ……これが、かつて私に答えを見出させた男と同一人物かと考えると頭が痛くなる。その愚かな頭をもう2,3発はたけば、少しはましになるものかと気休めに丸めた本を振りかぶっ……たところでふと考えた。
 (やってみなければ判らない、か……確かに我らの属性が剣でありその魔術が複製である以上は、『何らかにおいて創造されし剣』であれば造り上げる事が出来るやもしれんな)
 
 魅力的な考えではある。意思があると言うのはともかくとして、使い手に属性に応じた魔術の使用を可能とするというのはそこいらの魔剣では考えられない利便性である。
 そもそも一般的な魔術の行使という点において衛宮士郎の悉くは、私自身を含めてきわめて不自由な存在である。何せ余りにも偏った属性を持ち、魔術回路自体が唯一つの魔術にのみ特化して構築されている為に、その他の一般的な魔術を行使するとなると極めてその構造が徒となってまともな結果を導き出すことが出来ない。
 (つまりは、その点を克服する為に自らの属性を利用しようとしたわけか)
 足りなければ他から持ってくる、まぁ魔術師としては正しい判断ではある。
 そう考えた時に、ふと妙な案が脳裏を横切った。
 
 
 「……アーチャー?どうしたんだ?」
 眼下の衛宮士郎が訝しげに問いかけてくる。まぁ、丸めた本を振りかぶりながら考え事などしている守護者など、傍から見れば不審な事この上ないだろう。
 「衛宮士郎!」
 「はい!?」
 「造るぞ!」
 「はい!……って、何を?」
 「お前がそれを言うか?言うまでも無くこの剣に決まっておるだろう」
 どう考えてもこの場で造るといえばこの剣以外にないだろうに、我ながら頭の回転の遅い。まぁ、説明不足な点は否めないから軽く説明してやることにする。
 「お前が何を考えてこの剣を『召喚』しようとしたかは知らんが、着眼点は褒めてやる。確かに魔術行使の点において我らは不自由な点が非常に多い」
 「ああ、だからこの剣を使い魔にして……」
 「そこが間違っておるのだ……我々の魔術は一体なんだ?
  剣であれば造るのが当然だろう」
 「何でさ、この剣は意思を持っているじゃないか。しかも過去に英雄としてたたえられた存在だし。なら、使い魔として召喚すべきじゃないのか?」
 「阿呆が、よく記述を読むがいい。『使い手に属性に応じた術の行使を可能にする』のがこの剣の機能であって、意思云々は後の部分でしか記述されておらん。つまり、この剣の本質は『使い手の属性に関わらず剣の属性の術の行使を可能にする』『術の行使に当たって魔力の増幅器としての役割を果たす』の2点になるわけだ」
 「でも、俺たちの魔術は『この目で見た剣を複製する』のだから、実際に見たことも無い剣を造れるわけ無いじゃないか」
 確かにもっともな意見だ、実際に見たことの無いものは造れない。もしそれをツクろうとすればそれは創ることであり、我々の魔術の埒外となってしまう。
 
 だが、
 「何、心配はいらん。どんな形でも見たことがあればいいのだからな」
 そう言い捨てると、私は足早に部屋の出口へと向かう。
 「おい、何処に行くんだよ!?」
 「決まっているだろう」
 言うまでも無い。
 
 
 それで、私と衛宮士郎はTVに映される彼の剣に対して賢明に解析を試みることになる。因みに協力プレイだ。
 「材質は……駄目だ、どうしても判らない!」
 「未熟者が!判らないと自らの限界を認めてしまっては判るものも判らんわ!」
 「そんな事言ったって、どう考えても無理だろう、これは!」
 「いや、実際に経験したことがあるからこそ出来ると踏んだ……ならば、出来るはずだ!」
 「既に実証済み!?」
 「いいか、衛宮士郎。もとよりこの身は、ただ剣製だけに特化した魔術回路」
 「いや、それ俺の台詞だろうが!」
 「侮るな、この程度の剣製、成し得なくて何が剣製の英雄か。Swordian?は、私を諦めさせたければ『天地乖離す開闢の星』でも待ってこいというのだ。よいか衛宮士郎。我々はな、己が視界に入る全ての剣を背負うもの。―――この世の全ての剣なぞ、とうの昔に背負っている」
 「今度は微妙に改変してるし!?」
 「―――ついて来れるか?」
 「ついていけねぇ〜!!」
 
 
 結局、その日は彼の剣の複製は出来なかったがかなりの手応えを感じた。何故、如何にしてこの世界に喚ばれたかの詳細は結局判らないが、さしあたっては彼の剣の複製に総力を挙げるとする。
 どうせ、この出来損ないに召喚されたのだ。本当に単なる手違いで召喚されただけかもしれない。ならば、今出来る事に全力で取り組んでみるのも一興だろう。
 
 
 その後、帰ってきた赤いあくまに呆れられるのだが、それはまた別の話になる。

後書き

 うむ、素早くChapter02完成。少しギャグ風味を増してみた。
 そこはかと無く(と言うかモロに)別世界の設定が混じっているのは(゜ε゜)キニシナイ!!
 本当は後半部で凛を登場させたかったのだが書いているうちにアーチャーが暴走し出して一気に最後まで至ってしまった……次回には登場させたいところだ。
 まぁ、そう言ったところでプロット無し設定無しの脊髄反射シークタイムゼロセコンドで書き散らしているわけで。気がついたら何故か臓硯が登場していたりするのかもしれない……嫌な脊髄反射だな、をい。
 
 では、また次回に。