悪を滅する者

元ネタ:Fate/stay night

悪を滅する者

 荒れ果て、焼き尽くされ、死に絶えた土地。
 魔が蔓延り、邪が賛美され、悪が謳歌する場所。
 憤怒と、悲哀と、憎悪と、そして絶望に支配された廃墟。
 
 そこは、人に、神に、世界に切り捨てられた最果ての魔都。
 この世に顕現した地獄、人によって作り出された魔界。
 人が、自らの力を以って自らの愚かさを具現化した悲喜劇の舞台。
 
 ――――だが、舞台は幕が上がれば必ず下ろされる。
 
 
 
 状況把握。
 周辺状況――大規模な魔道災害、認識名『この世全ての悪』活動中。
 自己分析――抑止力による支援により、『無限の剣製』を無制限使用可能。
 作戦目的――魔道災害による汚染地域拡大の阻止。
 作戦目標――『この世全ての悪』並びに汚染領域。
 
 認識完了――作戦行動を思考……決定。
 
 ミッション ・ スタート       サーチ・アンド・デストロイ
 作  戦  開  始――――索   敵   必   滅
 
 
 かつて、理想を抱いて走り続けた事があった。
 己を省みず、他人を省みず、ただひたすらに理想を求めて走り続けた事があった。
 己を一振りの剣と為して戦って、戦い続けて、己を超え、己を捨て、ついには己が理想を体現出来ると信じた場所まで辿り着いた……愛した少女と同じ域にまで達した。
 『救いたいから救う』『救えるならば全てを救う』――――己が全てだったそれが、完璧なまでに『理想』であり『妄想』に過ぎないと理解したのは、己が信じ続けた理想に裏切られ続けて……一体どれ程の年月を重ねた頃だっただろうか。そして、その『理想を信じ続けた己自身』すら借り物に過ぎないと気付いたのは……
 
 故に己の理想を、生涯を、存在を否定した。殺す事の出来ぬ現象に過ぎない己を消すために、敵を騙し、味方を騙し、かつての自分自身に手を掛けた。
 だが、負けた――――否、勝てなかった。何故ならば、己を騙し抜けなかったから。理想が妄想に過ぎず、借り物に過ぎなくとも、それに憧れて目指す事は決して間違いでは無いと――――己の生涯は間違っていなかったと、答えを得たから。
 
 だから、もう曲がることは無い。元より折れる事など有り得ない。
 何故ならば――――この体は無限の剣で出来ているのだから。
 
 
 闇が集う、闇が吼える、闇が嘲笑う。
 漆黒の巨体を震わせて、幾多もの触手を蠢かせて、無尽の力で襲い掛かる。
 それはまるで、怒りに満ちて、或いは悲しみに浸って、若しくは憎しみに溢れて――――そして、絶望に堕ちていた。
 有限の全にして無限の一、同時に有限の一にして無限の全。
 人が造り出した神、人に忌み嫌われた悪、人に見捨てられた人。
 全てを内包しつつも、ただの一つも己は持たない。魔にして魔に非ず、悪にして悪に非ず――――その矛盾を以って座へと至った反英雄『この世全ての悪』。
 
 だが、どうと言うことは無い。
 その程度の存在、打ち倒せずして何が正義の味方か。
 正義の味方とは全てを救うべく己の信念を貫き通す存在。
 この世の全てなど、とっくの昔に背負い込んでいる。
 
 標的確認。
 対象戦力分析――――敵性戦力:無尽
 対抗手段検索――――該当件数:無限
 
 この世に悪が尽きずとも、正義の味方に限界は無く。
 無尽の暴虐を揮うのならば、無限の剣で打ち倒さん。
 
 
 炎が奔る、鉄が灼ける、鋼が鍛錬れる。
 広がるは、狭窄な荒野。吹き荒ぶは、赤錆の砂塵。立ち並ぶは、無限の刃金。
 それはまるで、森林の如く、星霜の如く、墓標の如く――――そして、世界の如く。
 全てを救うために、敵を打するための剣。
 正義を為すために、悪を滅するための剣。
 理想を貫くために、己を律するための剣。
 それは詭弁、それは矛盾――――されど、其は間違いに非ず。
 答えはただ、己が胸中に――――ならば、其に意味は不要ず。
 
          アンリ・マユ
 「いくぞ『この世全ての悪』――――悪意の貯蔵は充分か」
 
 
 幾千と無く繰り返されて、幾万と繰り返された、幾億と繰り返される闘い。
 かつては磨耗した宿命なれど、これからは誇りを持って立ち向かおう。
 
 手は刃金を、
             心は理想を、
                         胸は答えを、
 
     決して離さぬように抱き続ける。
 
 限り無い勝利無き闘いを、決して敗北せぬように。

後書き

 来週末に例のアレが発売するので、唐突に短編をば。
 俺としてはコピーバカこと赤い人が活躍してくれればと、夜も寝られずに仕方ないから願っていたりする……まぁ、嘘だが。ぬ〜んむ〜ん。
 とりあえず、今回の反省点は『戦闘場面の描写が出来ないので、内面描写と情景描写のみってどうよ?』『言葉遊びで文字数稼いでいるっぽいのはどうよ?』『オチてない気もするが、それってどうよ?』辺りか――――駄目過ぎorz
 もっと精進しないとな、さしあたって剣豪小説でも読んで剣戟描写を学んでみたり。