剣に生き、剣に斃れ
元ネタ:Fate/stay night+刃鳴散らす
剣に生き、剣に斃れ
聖杯戦争も終わりを迎えようとしている。
背後の寺ではおぞましい何かが産まれ出ようとしているのか、魔術など知らぬ自分にすら判るほどに禍々しい気配を放っている。だが、そんな事はどうでもいい。
最後まで残ったサーヴァントはこの身とセイバー。正確にはもう一騎残っているようだが、既に満足と動けない身のようだ。こちらは無視しても構わないだろう。後、ギルガメッシュとか言う豪奢で高慢な男がいるが、あのような輩とは関わり合いたくない。重要なのはセイバー、彼女だけである。
可憐な外見とは裏腹に凄まじいまでの剛剣の使い手。見た目からは考えられないほどに素早く力強く打たれ強い身体能力と、まるで未来を予知しているかの様な――実際に予知しているのかもしれないが――身のこなし。どれ一つとってみても、己などとは比べ物にならない本物の英雄である。
『まともにやり合えば必ず負ける』――――確信があった。
だが、己とて剣客として一角の存在であるとの自負がある。幾多もの戦いにおいて敵を斃してきた剣術がある。生涯の全てを捧げて完成させた魔剣がある。また、今に至るまでこの地で幾人もの英雄たちと戦火を交えて、未だ醜態を晒さずにこの身を保っている。
『案外、勝てるのではないか?』――――それは思い上がりなのだろうか。
おそらく、マスターの小僧や小娘はともかく、彼女だけは必ず堂々とこの場所へ現れるだろう。よく判らないが、サーヴァントはこの門を通ってしか境内へ入れないらしい。不便だとは思うが、好都合な話だ。もしかすれば三人揃って来るのかもしれないが、他の二人は後ろのアレに用事があるのだろうし、通してやることにする。それを良しとしないのならば――――まぁ、その時はその時だ。どうせ、後数時間もしないうちにこの身は消え去るのだから、それが外的要因によって早まるぐらいで何の問題があろうか。
『尤も、そうなれば残念だが』――――まぁそれは無いだろうと、脳裏に焼き付いた彼女を思い出す。
容姿・能力・技術・精神――――何一つとして欠ける事の無い、完璧な騎士。
そんな彼女ならば、条件を整えて対等な勝負を挑めば必ず受けて立ってくれる。例え状況が厳しかろうとも、己の矜持に懸けて受けて立たなければならないと思い込む。愚鈍なまでに純粋、呆れるほどに馬鹿正直な考え方だが、嫌いではない。
出来れば、何のしがらみも無く彼女と心ゆくまで剣を交わしたいとは思う。もし己がこの地に縛られない自由の身であるならば、それも可能だったのだが――――まぁ、世の中そうそう上手く行く事ばかりでは無い。この地に呼び出され、機会を与えられただけでも僥倖なのだろう。
『お前なら、どう思っただろうな……?』――――かつては友として、後に敵として剣を交わした男を思い出す。
彼ならば、自分の様な振る舞いはしないだろう。何処までも自分とは逆の――――いや、それでも同じ結末になったのかもしれない。どうせ同じくして剣に生きて剣に斃れた者、結局のところ概して変わらぬ者同士だったのだから。
ふと、空気が張り詰める。
麓から、迫り来る気配が一つ――――間違いようも無い、気高き存在。
人外の力を発揮して数百段の階段を一気に登り切り、足を止める。
本来なら在り得ざる、邂逅。
互いに交わりあうことの無い、運命。
セイバー、騎士王 アルトリア・ペンドラゴン。
アサシン、剣鬼 武田赤音。
「遅かったな、セイバー」
「――――アサシン!何故……」
「あの女が死んだのに、ってか?
悪ぃが、心残りがあるうちにくたばるってのは性に合わねぇ――――判るだろ、お前を待ってたんだよ」
言いながら刀を抜く――構えはまだ取らない。
セイバーの表情が強張る、無意識からか僅かながら切っ先が動く。
「申し訳無いがアサシン、今の私には貴方の相手をしている時間は無い。
出来ればこのままそこを通らせてもらいたいのですが……」
「それ、断ったらどうする?」
「――――無論、押し通るまで」
不可視の剣を構え、こちらを見据える。
ただそれだけの動きにも関わらず、まるで気温が数度下がったかの様に感じる。
常人ならば気絶するだろう程の剣気の圧力に、全身の神経が研ぎ澄まされる。
「なら、断る」
するすると、自然な動作で刀を肩の高さまで上げて右肩に構える。
刈流兵法が構の一つ、指。
対するセイバーは正眼から下段へ切っ先を落し、重心を前へ僅かに寄せる。
――――恐らく繰り出されるは、斬り下ろしを打ち払っての袈裟或いは胴。ならば、かぶせるようにより早く斬り下ろすが道理。取るは先の機、狙うは袈裟懸け、技は強。
背後では喧騒が聞こえる、おそらく金ぴかと誰かが闘っているのだろう。
セイバーの表情に焦燥が浮かぶ、意識が境内へ向けられる――――僅かな、致命的なまでの隙。
(もらった!)
停止状態から最速を通り越し神速まで、一息に加速。刀は最短の軌道を描いて、セイバーの頭頂へ吸い込まれるように近づいてゆく。
―刹那。
セイバーが意識をこちらへ戻す、刀は神速を超えて魔速へ至る。
――刹那。
不可視の剣が急加速、体を向かって左へ傾けながら赤音の左足を狙って横薙ぎ。
―――刹那。
体重を急激移動、無理な稼動に悲鳴を上げる体に鞭打って右後方へ跳ね飛ぶ。
――――刹那。
僅かに触れた刀の切先が、セイバーの髪を数本虚空へ舞わせる。
―――――刹那。
横薙ぎに用いた運体力を、そのまま右前方への移動に流用して滑るように右斜め前、赤音の対称の位置へ飛ぶ。
初撃を互いに外し、位置を変えて山門を挟み一挙一刀足の間を僅かに離して対峙――――間を置かずセイバーが斬り掛り、受け流して反撃を狙う赤音。両者一歩も譲らず、互いに今一歩攻め切れぬ膠着状態。剛剣は柳の如く赤音に受け流されるが神速の太刀もセイバーを捉え切れず、結果として時間のみが重ねられてゆく。
そして、剣戟は数十合を数えた頃、互いに距離を置いて睨み合う。
(あの機で打ち込んで、それでもかわすか!)
内心舌打ちする。
今の斬り込みは会心の一撃だった、例え伝説の剣豪相手だろうと重傷の一つは負わせるぐらいの自信はあった。それが、いとも簡単にかわされた……
(流石は最優のサーヴァント。理解していたつもりだったけど、甘かったか?)
己の想定の甘さに歯噛みしつつ、再び刀を指の構に戻す。
セイバーもまた、不可視の剣を構え直す――――が、様子がおかしい。
体もはっきりとこちらへ相対している。
視線も確かにこちらを見据えている。
剣先も間違い無くこちらへ向けられている。
だが、意識はこの場所には無い。
意識が完全に境内へと向いている、まるで己の居場所はそこだと言わんばかりに。
こんな勝負に費やす時間が惜しいと、明言するが如くに。
その焦燥を煽るかのように、境内からは激しさを増した金属音が鳴り響く。
(――――――っ! ふざけるな!!)
体のばねを一気に解き放ち、袈裟懸けに斬り掛かる。
急遽迎え撃とうと、セイバーの意識がこちらへ向いた瞬間――軸足を前方へ伸ばし、爪先を蹴り出して一挙に間合いを崩す!
刈流、飢虎。
今度ははっきりと手応え、浅くではあるが肩口を切り裂く。
――――だが、隙を捉えて機を取って虚を突いたにも関わらず、与えたのはかすり傷。
元より体勢を崩して虚を突く技。故にどうしても威力が弱くなる技であるが、それを差し引いてもこの程度では、己を嘆くべきか相手を褒め称えるべきか。
(これでもまだ、当たらねぇかよ!)
己の限界を用いて、相手は明らかに無意識なれど手を抜いていて――――それで互角。
それ自体は驚嘆すべき事であり、賛美すべき事なれど、
「ふざけるなセイバー!」
それでも尚、無意識とは言え手を抜かれることは腹立たしく、
「お前の相手は俺だ!俺を倒さなきゃ向こうには行かせねぇ!!」
そして、出来うる事ならばこの相手の真なる実力を見てみたい。
「そんなに早く向こうへ行きたいんなら、本気で俺に掛かって来い!!」
例えそれが己の勝算を低めようとも――――否。
「今の状態のお前に勝っても、こっちは嬉しくも何ともねぇんだよ!」
自分を『見て』いない相手に勝ったところで、それは勝利に非ず。
「――――次が、多分最後だ。全力で来い」
相手の全力を破ってこそ、勝利。拾い物の勝ちなど、犬にでも食わせてしまえ。
既に希薄になりつつある体を震わせて、叫ぶ赤音の姿を見据えるセイバー。
その鬼気迫る、純粋なまでの闘争への渇望。果たしてそれに何を思うのか。
「――――判りました。
どうやら、無意識ながら礼を失していたようですね。」
頭を下げて、謝意を示す。
「貴方ほどの相手に、あわよくば無傷で通ろうと焦った私が愚かだった。
元より私の剣は、そのような事には向かない」
肉を斬らせて骨を断つ、それこそが剛剣の真髄。
セイバーの持つ不可視の剣から、担い手の意思に呼応するが如く突風が吹き荒れる。
不思議な事に、風が吹き出されるにつれて、刀身が光を放ちつつ姿を見せ始める。
まるで、重圧から解放されるように。そして、解放を喜ぶように。
しばらくして、三尺余りの諸刃の西洋剣がセイバーの手の内に収まっていた。
ぼんやりと光を放つそれは、神々しいまでの存在感を放っている。
聖剣――――それも、最上級に位置するであろう事は容易に推測出来た。
「私に剣(エクスカリバー)を抜かせた以上、覚悟は宜しいですか?」
そう言い放つセイバーに、先程までの焦燥は見当たらない。
あるのは勝利を確信した騎士の――否、王の表情のみ。
これこそがセイバー!これこそが騎士王!これこそがアーサー王!
赤音は最後にして、己の望みが叶ったことを知った。
ならば、もはや言葉は不要ず。
「いざ――――」
「――――尋常に、」
「「勝負!!」」
両者、必殺を企図して全力で飛び込む。
脇構えで一気に間合いを詰める、セイバー。
それを『指』から袈裟懸けに斬り落そうと踏み込む、赤音。
半瞬、赤音の刀が早い――――思われたその時、間合いからセイバーが消える。
飛び込んだ勢いをそのままに、セイバーが一気に空中へと身を躍らせたのだ!
もはや止まらぬだろう赤音の刀、その絶対的な隙へセイバーが剣を振るう――
(もらった!)
――刹那!
赤音の体が急激に起き上がる、
まるでその事を予期していたかのように。
其が証拠に振るわれる刀は、はっきりと刃が反されている。
我流魔剣・鍔目返し
そのまま刀はセイバーを斬り裂き――――はせず、空を斬る。
(――――なっ!?)
絶対の奇襲の裏を欺く必殺の魔剣、其れが空振りに終わった事に愕然とする。
何故ならばセイバーは宙を舞っていた――――先程よりも僅かに高い位置で。
魔力放出、高密度の魔力を放出して運動力に加算する技能。本来ならば、肉体に上乗せして使う能力ではあるが、別に体と連動させて使わなければならないということも無い。
故に任意の方向へ放出して、空中で軌道を変える事も十分に可能。
それは敵の不意の攻撃を避けたり、或いは――――不意の攻撃を仕掛けたり。
・・
また、軌道を変えて攻撃態勢に入ったセイバーを視界の端に捉えながら、赤音は呟く。
「……そんなんアリかよ」
かくして、図らずも生前の勝負の裏返しにて武田赤音は敗れ去る。
後書き
二日連続で書いてみる。
今回はセイバー支援のつもり……だったはず。でも、今読み返してみて気付く……これ、「Fate/stay night」の二次創作と言えるんだろうか……セイバー、サブキャラっぽいし。ついでに言えば決めのシーンも「刃鳴散らす」の最終戦が元ネタだし。まぁ、舞台は柳洞寺だが。
どうでもいいが本家『燕返し』より弱いぞ『鍔目返し』。まぁ多次元屈折現象起こして分身したところで、突進技なので斬り上げを放つ自分を袈裟懸けに斬ってしまいそうな気もするが。
しかもやられ方が間抜けだぞ武田赤音、書いたの俺だが。まぁ、セイバーに『昼の月・怪』を使わせる時点でこんなオチにしようと思いついたのが運の尽きっぽいが。哀れ武田赤音、思いついたの俺だが。
おまけで没ネタ。
(前略) セイバー、食欲魔人フルアーマーダブルセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。 アサシン、救国剣鬼ハナチラス 武田赤音。 (後略)
没理由:シリアスさが無くなるから、多分二週目から選択肢次第で登場。
追記
オチが酷くてスマン何処の誰だか知らない人その1、正しい意味でも間違った意味で確信犯でやったから反省はしないけどな。
読む気にさせられなくてスマン何処の誰だか知らない人その2、多分あんたの判断は正しいorz
厨極まりなくてスマン何処の誰だか知らない人その3、確実にあんたの判断は正しいorz
まぁ、アレだ。ワゴンに並んだファミコンジャンプを見るような生暖かい視線でヲチしてくれ。