【勝手に】銀河英雄伝説IF物語【妄想】@SF・FT・ホラー 適当にまとめ 〜264 ◆X4sTWrpuic氏の作品〜 vol.1

264 ◆X4sTWrpuic氏の作品

268 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/06 16:05
 であ、やってみます。
 -------------------------------
 混乱の巷になってしまった門閥貴族どもの牙城、ガイエスブルグ。
 そのまっただ中で、ファーレンハイトは他人事のように考えていた。
 ・・・さて。どうやったら食えるものか。
 彼に大言癖は無かったが、しかし自信はあった。恐らく頭を垂れれば、ローエングラム侯は俺を買うだろう、と。
 それだけの価値がある自負はある。伊達に貧乏貴族の小倅からのし上がった訳ではない。
 などと考えている彼の前を、若い士官が早足に通り過ぎた。
 メルカッツ提督の副官、シュナイダー少佐だった。
「おい少佐、血相変えてどこへ行く」
 呼び止められたシュナイダーはぎょっとしたような顔で振り返った。手は腰の拳銃に延びている。
 ・・・何かあるな。
「何でもない、という言い訳は通じんぞ。卿の顔を見れば、せっぱ詰まっている事はお見通しだ」
「・・・はぁ」
 シュナイダーは観念したようにうなだれると、早口に説明を始めた。
 メルカッツを亡命させよう、という企てを。
 
 
269 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/06 16:16
 ・・・ヤン・ウェンリーを頼るのか。
 ファーレンハイトは少しこの少佐を見直した。ただの堅物かと思っていたが、なかなか機転が利くらしい。
「お願いです閣下、どうか見逃して下さい」
 懇願するシュナイダー。ファーレンハイトは苦笑した。
「見逃すも何も、俺は公爵の部下でも何でもない。卿らを止める気は無いさ」
「ありがとうございます!」
「ただ」
 身寄りもなく身一つで優雅な独身高級将校暮らしというのは、こういうときに気楽でいい。
 ファーレンハイトは、この妙な思いつきを実行に移すことにした。
「俺もその話に乗せて貰おう。メルカッツ提督を、卿のような若造に任せておくわけにもいくまい」
 
 縁とは妙なもので、二人にメルカッツを加えた三人が桟橋に向かう途中、彼らは一椿事に出くわした。
「嫌だ、わしは・・・わしは死にたくない!」
「閣下、どうか帝国貴族らしい潔い御最期を」
「嫌だ、嫌だぁ!」
 言うまでもない、その耳障りな声はブラウンシュヴァイク公その人であった。腹心のアンスバッハと何やらもめているらしい。
 できれは関わり合いになりたくないと思った三人だったが、公爵の方は必死だった。彼らに目を留めると、喜色を露わにする。
「おお、メルカッツ!卿らに警護させれば安心だ!さぁ、脱出するぞ!」
「公爵閣下・・・」
 困り顔のアンスバッハ。何となく状況が読めたファーレンハイトは、冷たい視線でかつての盟主を一瞥した。
「お断りする。我らは我らの好きにさせて頂く、閣下の指図は受けない」
「な、なんと!」
「貴方が引き起こした騒動だ、その責任くらいお取りなさるがよろしい」
「お、おのれぇ!」
 どこに隠し持っていたのか、拳銃を抜く公爵。
 しかしその一瞬前に、ファーレンハイトとシュナイダーが銃を抜いていた。
「・・・!」
 途方に暮れるアンスバッハの目の前で、公爵は呆気なく射殺されたのだった。
 
 
270 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/06 16:25
 呆然とするアンスバッハ。年長者らしい配慮か、メルカッツは彼の方に手を置いた。
「気に病む事はない、准将。公爵閣下はご病気だったのだ、それも精神面のな」
「・・・」
 しかしメルカッツは勘違いしていた。アンスバッハが呆然としていたのは、主を殺されたことが原因ではない。
 主の死をも利用したローエングラム侯暗殺計画が出だしで崩壊してしまったことが、彼を放心させていたのだった。
 ファーレンハイトの方はもっと実務的だった。急がなければ脱出も覚束ない。
「さあ急ぎましょう。奥の桟橋に、うってつけの艦があります」
「・・・准将、卿はどうするかね」
 アンスバッハは首を振った。
「もはや我が策も尽きました・・・今更ローエングラム侯にまみえるのも気が進みません」
「ならば我々と共に来てはどうか」
 企てを打ち明ける。沈みきっていたアンスバッハの表情に、わずかに生気が戻ったようだった。
「そういうことであれば・・・ご一緒しましょう」
 生きていれば、あの金髪の小僧に復讐する機会もあるだろう。彼はそう考えていた。

 ガイエスブルグの軍港に係留されていた試作型大型砲艦「アースグリム」を奪取した一行が、艱難辛苦の末イゼルローン回廊に辿り着いたのは、数週間後のことだった。
 
 
280 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/06 22:07
 おお、それなりに受けている・・・・嬉しいw
 んじゃ、張り切って続きをば。
 -------------------------------
 ヤン・ウェンリーがその知らせを聞いたのは、養子たるユリアン・ミンツの口からだった。
「何を慌てているんだ、ユリアン?この世に慌てるに足るような事など、そうは無いものだぞ」
 鹿爪らしく教訓を垂れるヤン。ユリアンはちょっと首を傾げると、養父を驚かせてみることにした。
「メルカッツ提督とファーレンハイト提督はご存じですよね」
「ああ、帝国軍の名将だ。メルカッツ提督と言えば宿将中の宿将だし、ファーレンハイト提督は攻勢を取らせれば並ぶ者も少ない人物だよ」
「そのお二方が同盟に亡命してきたんです!ヤン提督を頼って!」
 ・・・ヤンが飲みかけていた紅茶を吹き出したのは言うまでもない。
 
 
281 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/06 22:08
 ダスティ・アッテンボローは、自らが貴族的だなどと思った事もない。貴族などという人種は、この俺の対極に位置する人種だと思っている。
 しかしこうして見ると、目の前にいる元帝国軍の将官は、何か自分に似通ったような人物に思えて仕方がなかった。
「俺は、喰うために軍人になったのだ。たまたま性に合っていたまでで、合わなければ他の生き方も探したろうさ」
 悪びれることもなくそう言い放つ白皙の帝国軍少将に、彼は好意に近いなにかを覚えてしまっている。
「それじゃあ、もう帝国への忠誠心はないのか?」
「無い」
 ファーレンハイトは断言する。
「確かにローエングラム侯は不世出の天才だろう。叛徒・・・・あぁ、同盟軍に彼ほどの政戦両略の天才がいるとも思えん」
「・・・」
 まぁ、先輩は政治向きの話は嫌いだしな。
「しかし、それ以前に俺はあの若者に頭を垂れる機会を失ってしまってな。今更ミッターマイヤーやロイエンタールの真似が出来るとも思えんよ」
「では、あくまで同盟の為に働くと」
「・・・どうかな。それは少し違う」
 ファーレンハイトは首をかしげ、人の悪い笑みを浮かべた。
「俺は、ローエングラム侯の敵手たり得るヤン・ウェンリー提督に協力したいのだ。当世最高の天才相手に戦えるのは、武人として本懐というものだろう」
「・・・」
 なるほど、分かったぞ。アッテンボローは思った。
 こいつも同じなのかも知れん。伊達と酔狂で生きているのだ。
「メルカッツ提督はどうなんだ」
「・・・あの方は不器用なんだ。そして、俺はそういう生き方も嫌いではない」
「と、言うと」
「意地を張るのもよかろうし、筋を通すのもいい。今更小僧に膝を屈するのも嫌だというなら、それでもいいさ」
「・・・」
「俺はあのお人が好きでね。付き合ってもいいかな、と思うんだ」
 ・・・こいつ。
 アッテンボローは、心中頭を掻く。
 ・・・こういう男もいるらしいな、帝国にも。
 
 
290 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 10:07
 この時点でのファーレンハイトは中将だったようです。
 謹んで訂正させて頂きます。
 -----------------------
 帝国軍の現役将官二名の亡命という異常事態に、イゼルローン首脳陣は困惑した。
 しかし彼らを亡命先に選んだシュナイダーの直感は正しかった。
 後にアッテンボローはこう語っている。
「もしお前さんがハイネセンに直行してたら、もっとひどいことになったろうさ。トリューニヒトあたりに骨の髄まで利用された挙げ句用が済んだらポイ、だっただろうな」
 危惧する意見もあるにはあったが、結果として彼らは亡命者を受け入れたのだった。
 
 半ば困惑しているのかそれとも深謀遠慮のなせるわざか、身の置き所が決まってもメルカッツは沈黙を続けている。
 それに対し、さすがに若いファーレンハイトはそれなりに周囲にとけ込もうとしているようだった。
「なんだって?奴さん、正式任官して欲しいだって?」
 亡命者達の世話まで仰せつかってしまって忙しいフレデリカの困り顔に、キャゼルヌは頭を抱えた。
「はい・・・中途半端は性に合わないとか何とかおっしゃって」
「全く・・・ようやく扱いが内定したってのに」
 ハイネセンからの訓令では、将官三人はそれぞれ階級を一つ落として、シュナイダーは元の階級での軍属待遇ということになっているようだった。
「ここから改めて根回しし直すのか?気軽に言ってくれるもんだ」
「・・・ですが、彼の考えも分からないではありません」
「・・・ほう?」
「恐らくファーレンハイト提督は、自らの制服を変えることで彼らが仲間としてとけ込もうとしているという意思を示したいのではないでしょうか」
「なるほどなぁ」
 メルカッツとアンスバッハは年が行きすぎていて、今更生き方を変えるのも辛いのだろう。シュナイダーでは格が低すぎる。
「分かったよ。貴官の洞察に免じて、申請を出してみよう」
「ありがとうございます」
 
 キャゼルヌの根回しが功を奏し、ファーレンハイトを正式に同盟軍少将に任ずるとの辞令が届いたのは宇宙歴798年3月のことだった。
 その辞令には付録が付いていた。いや、ハイネセンの政治業者達にとっては、辞令の方が付録だったろう。
 それはヤン・ウェンリー大将に対する査問会召喚状だった。
 
 
291 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 10:37
 一方帝国でも事態が動いていた。
 リップシュタット戦役はラインハルト陣営の勝利で幕を閉じたが、その最終段階で大事件が発生したのだった。
 その勝利式典での捕虜引見中、フレーゲル男爵の遺体に仕掛けていた爆弾をその参謀シューマッハ大佐が爆発させたのだ。
 有能でもあり冷静沈着な切れ者とされていた彼が何故このような凶行に及んだのかは定かではないが、後に部下達の証言から、自衛の為とはいえ男爵を射殺してしまったことに罪悪感を感じていたと言われている。
 それはともかく爆弾は爆発し、式典会場は大混乱となった。
 指向性爆薬だったらしく巻き添えになった者が無かったのは幸いだったが、そのターゲットとなったラインハルトの即死は免れない所だった。
 赤毛の友が、彼を救わなければ。
 しかしキルヒアイスは強運だった。左半身で主君を庇った事が幸いしたのか、致命傷は負わずに済んだ。
 彼は左腕と左足、そして左目を失う替わりにラインハルトを守り抜いたのだった。
 
キルヒアイス・・・良かった、元通りじゃないか」
 ようやく包帯が取れた親友の手を取り、ラインハルトは涙していた。堅く握った左手は温かく、とうてい義手とは思えない。
「大丈夫ですラインハルト様。ちゃんと左目も見えていますよ」
「そうか、それは良かった・・・本当に・・・」
 あの後、二人の関係はむしろ旧にも増して強いものになっていた。
 血塗れのキルヒアイスを抱きかかえて絶叫するラインハルトの姿は、臨席したほとんど全ての者に「赤毛の男は特別なのだ」ということを理解させるに十分だった。
 アンネローゼは献身的に彼を看護し、ラインハルトも暇さえあれば親友の病室で時間を過ごした。
 ヴェスターラントの件も、ラインハルトの涙ながらの謝罪でけりがついていた。
「しかし彼一人を責めてもいけませんね、ラインハルト様。ヴェスターラントのことはずっと背負っていかなければなりません・・・私も、出来る限りの事はしますから」
 オーベルシュタインを排斥しようとするラインハルトを止めたのもキルヒアイスだった。彼らしいバランス感覚だったろう。
 ラインハルトは傷ついた親友に様々な栄誉で報いた。帝国元帥、宇宙艦隊司令官、統帥本部次長、幕僚総監、等々。
 しかしキルヒアイスには、そうした諸々よりも、金髪の姉弟がいつもそばにいてくれる事の方が嬉しかった。
 
 
299 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 13:21
 シャフト技術大将立案のガイエスブルグを利用したイゼルローン攻略作戦にゴーサインが出た背景には、様々な思惑が錯綜していた。
 意外なことに、このプランに積極的に乗ったのはオーベルシュタイン上級大将だった。
 ナンバーツー不要論を唱える彼だったが、今回の事件で当面キルヒアイスの排除は困難だ。ならばナンバーツーを牽制し得る者を多数作っておく必要がある。彼はそう考えた。
 牽制者として適任なのはミッターマイヤーとロイエンタールだが、ミッターマイヤーはラインハルトやキルヒアイスと親し過ぎ、ロイエンタールは彼自身が利用するには危険すぎる。
 では第二群、大将クラスとなる。そうして選ばれたのが、ケンプだった。野心もあり、才幹もそれなりにある。
 一方ラインハルトの方は、この時点での積極的攻勢には消極的ではあった。ただし、ケンプの只ならぬ意気込みとそれを後押しするオーベルシュタインに動かされたのも事実だった。
 そして、何にも増して、彼は今それどころではなかった。親友の回復が彼の最大の関心事だった。
 運が良ければイゼルローンを取れる。失敗したところで、忌々しいガイエスブルグを回廊の帝国側に置いておけば、今後の橋頭堡にもなるだろう。
 ラインハルトは結局作戦を裁可した。ただし、主目的は要塞の移転であり、イゼルローン攻撃は機会があれば、という但し書きを付けて。
 
 
306 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 14:45
 一方、ヤン不在のイゼルローンでは残された面々が頭を抱えていた。
 書類上の最上級者は要塞事務総監で司令官代理のキャゼルヌ少将だが、彼は完全な軍官僚で実戦指揮に関しては期待するだけ無駄でしかない。
 実戦部隊の最上級者は駐留艦隊副司令官のフィッシャー少将。次いで分艦隊司令アッテンボロー少将。
 そして無任所少将のファーレンハイトと、中将待遇の軍事顧問メルカッツ。
 要塞首脳が集まった会議の席上、まずキャゼルヌが宣言した。
「誰も期待してないだろうから先に言っておくが、私は指揮は執れないぞ。防備はシェーンコップ少将に任せるし、艦隊も同じだ」
 席次的にその役割を果たさねばならないのはフィッシャーだが、それは彼に向いた職責とも言えないだろう。そう考えたアッテンボローは、自分で口火を切ることにした。
「それなら、ここにいる同盟軍の正規の軍人で、最も艦隊戦の経験に富む人物に指揮を委ねればいい」
「・・・それは、つまり」
「そういう事です。ファーレンハイト少将、あなたに要塞駐留艦隊の指揮官代行をお願いしたい」
「・・・私が?」
 ようやくこの制服も着慣れてきたかな、と他人事のように会議を聞き流していた彼は、突然話を振られ慌てて顔を上げた。
「いや、それは困る。第一私は亡命者であって・・・」
「しかし今では我が同盟軍の正式な少将だ。その軍服と階級章にはそれなりの責務も伴うというものだ」
 畳みかけるキャゼルヌ。
「私は賛成だが、どうだ」
「異議なし」
「困ったものだが・・・まあ仕方がないですな」
「まぁ、妥当かも知れませんなぁ」
「・・・・」
 救いを求めるようにメルカッツに視線を向けるファーレンハイト
 老提督は重々しく頷く。若き猛将は、進退窮まった事を悟らざるを得なかった。
「・・・諒解した。ただし、条件がある」
「条件など聞いてやる必要はないが、一応耳には入れておこう」
司令官代行の顧問として、メルカッツ提督の助言には耳を傾けて頂きたい」
 キャゼルヌは即座に頷いた。
「当然だ。メルカッツ提督は要塞司令官顧問の職にあるからな」
 
 
307 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 16:55
 艦隊を預かることになってしまったファーレンハイトは、幕僚を自らの旗艦アースグリムに集めた。
 ヒューベリオンを使えばどうか、というアッテンボローの意見もあったが、それはヤン提督に対し無礼だろうと却下したのだった。
フィッシャー提督は副司令官として主力の運用に当たって貰う。アッテンボロー提督には、適宜分派した分遣隊の指揮を執って貰うが、よろしいか」
 否やは無かった。配置面では、ほぼヤンのやりかたを踏襲しているからだ。
「グエン提督、貴官は予備兵力として拘置する。よろしいな」
「待って頂きたい。我が部隊は通常前衛を任されている」
「それはそれ、だ。貴公らのような指揮官の使い方はいろいろある」
 こいつはビッテンフェルトのような男らしい。フレデリカから渡されていたデータファイルに目を通したファーレンハイトは、そう結論していた。
「貴公らの部隊は決戦兵力だ。最終局面で投入し、勝敗を決めるのに使うつもりだ」
「・・・ふん、まぁお手並み拝見といこうか」
 グエンの悪態にも表情を変えない彼を眺めていたアッテンボローは、心中ため息をついた。
 ・・・まぁ、ご苦労な事だな。
 
「いや、どうという事はない。貴族どものお守りをしていた頃と比べればずっとましだ」
 打ち合わせも終わり、アッテンボローの誘いで士官クラブへ向かう道すがら、ファーレンハイトは僅かに首を振った。
「あれでましだとすれば、貴族ってのはどうにも度し難いな」
「そういう事だ。それに俺の苦労など、アンスバッハの苦労と比べればどうということもないさ」
 すれ違う女性士官。彼女らが、距離を置いた後でほぼ例外なく振り返っている事に、アッテンボローは気づいていた。当然、俺を見ている訳じゃない。
「・・・ところでファーレンハイト提督、お前さん独身だったのか?」
「ああ、そうだが・・・それがどうかしたか?」
「いや、別に」
 俺には関係ないが、シェーンコップやポプランにとってはライバル出現かもしれんな。彼はそんなことを考えている。
 
 
308 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/06/07 17:06
 同時刻、要塞司令部横の参謀公室にて。
 
「なるほど。では、この作戦の意図はともかく、人事的にはそういう訳なのだな」
「恐らくそうでしょう。ローエングラム侯はさほど期待していない、と取るべきかと」
 アンスバッハはムライ参謀長相手に情勢分析の最中だった。
「カール・グスタフ・ケンプ大将・・・戦闘艇のエースだったらしいが」
「平民出の将官としては出世頭の一人です。意外に上層部の受けも良かったのですが、ここ数年で新興勢力が台頭してきたせいで、やや伸び悩んでいる風情はありますな」
「そのようだな」
「我が方に抱き込もうと考えたこともあったのですが、その暇も無く」
 アンスバッハが呟くように言った言葉を、ムライは彼なりに好意的に解釈していた。
「彼が貴官らに味方したとして、貴族連合軍は勝てたものだったかね?」
「それは・・・まあ、難しかったでしょうな。メルカッツ提督やファーレンハイト提督をもってしても敗れたのですから」
「なら気にする必要も無いだろう。貴官は引き続き、私の補佐として裏方に当たって貰うつもりなのだが、差し支えはないかね?」
「微力を尽くします」
 しかし何かこう、執事か何かのような男だな。自分のことは棚に上げ、ムライはそう思った。