【勝手に】銀河英雄伝説IF物語【妄想】@SF・FT・ホラー 適当にまとめ 〜264 ◆X4sTWrpuic氏の作品〜 vol.3
264 ◆X4sTWrpuic氏の作品
700 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 20:05
所変わって、惑星ハイネセン。
市民は「ミラクル・ヤンの新たなる奇跡」に歓呼の声を上げていたが、重苦しい空気に包まれている場所がその中でいくつか存在した。
政治屋の牙城、最高評議会ビルと統合作戦本部ビルである。
中でも真剣に困っていたのは統合作戦本部だった。政治業者達は例の査問会以来思考停止状態に陥っており、軍事面の課題は全て統合作戦本部に丸投げを決め込んでいたからだった。
この時期の統合作戦本部長はドーソン大将、総参謀長はチェン大将だった。
本部長と総参謀長の階級が同じであるのは理由があった。今の自由惑星同盟軍には元帥がいないのだ。
ロボス、シトレ両元帥が予備役入りしてしまい、最高評議会は使い勝手がいい駒としてドーソンを起用したものらしかったが、しかし彼はその付託に耐える人材ではなかった。
能力が足りないだけなら、彼でも何とかなったかも知れない。
彼は無能かも知れなかったが、出世欲と権勢欲はあった。プライドもあった。
そういう人間は、取りあえず自分の椅子を守ることには長けているものだ。
701 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 20:06
しかし、今回の事態は彼の精神的キャパシティを超えてしまっていた。
まず、彼自身が片棒を担いだヤン吊し上げ査問会は大失敗した。
更に、そのヤンがまたしても帝国軍に痛打を与え、イゼルローン回廊に要塞を一個増やす離れ業を演じて見せた。
そして、政治業者たちはその後始末からはさっさと手を引いてしまった。口ではヤンの功績を褒め称え、自分は救国の英雄たるヤン提督を支持している、と皆アピールしたりしている。
責任を取らされるのは軍部だった。軍部のトップ、ドーソン大将、彼自身だった。
ある政治家が「奪取したガイエスブルグ要塞を、アドミラル・ヤン要塞に改名してはどうか」などど発言し、それが市民の熱狂的支持を呼んだりしている状況は、彼のプライドをズタズタに引き裂いた。
今回の功績でヤンに元帥号を、等という話も政府筋から流れ、民衆はそれを当然のことのように囃し立てた。言を前後にしてあいまいな態度を取る統合作戦本部は仮借のない批判に晒された。
統合作戦本部長が大将でしかないのにヤンを元帥にするのは組織論的に困難だ、とドーソンは新聞記者に説明してみたが、翌日彼の自宅とオフィスの電話はパンクする結果となった。
更には妻には逃げられ、親族からは白い目で見られるようになってしまった。
皆ヤンを褒めそやし、それに正当に報いないと何故かドーソンを批判した。
・・・私のせいではない、こんな状況に私を追い込んだのは政府、政治屋どもじゃないか!
ドーソンは眠れぬ夜を過ごした。元来小心者の彼は、ついには自らの部下達まで自分を批判がましい目で見ていると信じ込むようになった。
・・・あぁ、私はどうすればいいんだ・・・!
ある朝、目覚まし時計が鳴ってもドーソン大将はベッドから出られなかった。
起きあがろうとしても体が言うことをきかなかった。彼は泣きながら枕を抱きしめるだけだった。
もはや身体も精神も、平衡を保ってはいられなくなっていた。
昼になっても出勤してこない上司の様子を見に来た副官が見たものは、ベッドの中で丸くなり嗚咽している統合作戦本部長の姿だった。
705 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 20:54
>703
まぁ、704だと考えてくだされば。細かいミスは指摘してくださいませ。
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ドーソン大将は精神衰弱状態、との知らせは軍上層部を一気に脱力させた。
またか、と呟いた者は百や二百では無かったろう。故グリーンヒル大将のやりきれなさに思いを馳せる者もいたろう。しかし何より、当座の責任者をどうするのか。問題はそこにあった。
統合作戦本部長に擬される現役軍人は三人いた。
近日中に元帥昇進が確実視されているヤン大将、ビュコック大将、ロックウェル大将の三名である。
政治業者達はロックウェル大将を望んだが、現役軍人達はビュコック大将に信望を寄せていた。市民の人気はヤンにあるが、これはまぁ論外だと誰もが思っていた。
ヤンをおいてイゼルローンを任せうる者はいないし、彼をハイネセンに縛り付けるわけにもいかない。
今、ヤンの勝利によって軍部の発言力は増大している。ビュコックを強力に推せば政府首脳としても無視はできないかと思われた。
706 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 20:59
しかし当のビュコックにその気は全くなかった。彼は、自分自身がそういう役回りに向いていないことをよく承知している。
・・・それにわしが艦隊におらなんだら、誰がヤンの面倒を見てやるというんだ。
そういう役柄も好きではないが、あのイゼルローンの魔術師を支えてやる者が艦隊にもいなければ、あの若者も大変だろう、と思う。
・・・ウランフかボロディンでも生きておれば何とかなったろうが・・・。
老提督はため息をつくと、手元の秘話回路付きホットラインに手を伸ばした。もはや頼るべき人間は一人しかいない、と彼は考えていた。
電話の相手は、カッシナという田舎の惑星で養蜂業者をしているはずだった。
707 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 21:15
ホットラインでの会話はごく手短なものだった。
その相手、シドニー・シトレ予備役元帥はビュコックの懇願をはねつけようとした。自分はもう過去の人間で、今更何かをどうこうしようとも思わない、と明言した。
当然そういう反応はビュコックも予期していた。わしは諦めませんぞ、と言った後で、ビュコックはこう言った。
「同じ事を考えておる者はわしだけではありませんでな。覚悟はしておかれたほうが良いですぞ」
電話が切れるとすぐ、ビュコックはイゼルローンへの超光速通信回線を開き、まずバグダッシュ中佐を呼び出した。防諜態勢の確認を行ったのだ。
このあたりの老獪さはさすがに「呼吸する軍事博物館」と称されるだけのことはあった。中佐から機密保持については問題なし、との返答を受けると、いよいよ彼はヤンを呼び出した。
「・・・え?私にシトレ閣下を口説け、と?」
用件を告げられたヤンは素っ頓狂な声をあげた。
他に誰が、この難局を担えるものか。ビュコックの言葉に不承不承ヤンは頷いたが、しかし冴えない顔で老提督を見つめ返す。
「ですが、私ごときの言うことをあのお人が聞きますか?」
「お前さんはかつて、あの御仁から無理矢理イゼルローン攻略を押しつけられ、見事に成し遂げた。それを楯に取れば、あの人も文句は言えまいよ」
「はぁ・・・」
「それに、あのロックウェルあたりが上に乗っかってきたらどうしようもあるまい?
我々が少しでも楽をする為だ、少しくらい手を貸してくれてもバチはあたるまいて」
「・・・はぁ」
曖昧に頷く。とんでもないことになってしまった、とヤンは頭を抱えたい心境ではあった。
708 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 21:28
ヤンが養蜂業者の楽隠居と化したかつての恩師と連絡を取ったのは、その翌日だった。彼が寝ないで策を練るなど、実は珍しいことだった。
「やはり君か」
開口一番、シトレはそう言った。ヤンは頭を掻くしかない。
「昨日ビュコック翁から連絡があったとき、そんなことを言っていたからな。次は君しかいないと思っていたよ」
存外機嫌が良さそうだ、とヤンは取りあえず胸をなで下ろす。
「それでしたら話は早いのですが・・・」
「断わる」
言い終わらないうちにダメ出し。ヤンは途方に暮れそうになる感情をなんとか抑える。
「いえ、ですから最後まで話を・・・」
「私に現役に復帰しろ、と言うのだろう?断る」
あぁ、やはりだ。仕方がない。
ヤンは心の中で手を合わせた。校長、済みません。こういうロジックは嫌いなのですが、もう他に手がありません。
彼はビュコックが示唆し、昨夜寝ないで作戦立案に付き合ってくれたフレデリカが構想した作戦を展開することにした。
「・・・校長、あなたは以前こうおっしゃいましたよね」
シトレの声が途切れる。
「能力のある者がその責任を果たさないのは怠惰なことだ、と。私にイゼルローン攻略を命じられたとき、そうおっしゃいましたよね」
「・・・む」
「そしてこうもおっしゃいました・・・君なら出来ると信じている、と。
私も信じています、あなたにならできる、と」
しばしの無言。
709 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 21:38
ヤンは冷や汗をかきながら、声の続きを待つ。
しばらくして、くぐもった笑い声が聞こえてきた。
「・・・閣下?」
「・・・入れ知恵をしたのは誰かね」
「は?」
「君はその手の説得法は嫌いな筈だ。それでも敢えてそう言えと仕向けたのは誰だ?ビュコック翁か?」
「いえ・・・えっと、それは・・・小官の副官で・・・」
「・・・あぁ、グリーンヒルの娘さんか。なるほどな」
くぐもった笑いは、いまや苦笑混じりの哄笑になっていた。
「分かった、そう言われれば断りようが無い。引き受けよう・・・ただし三つ、条件がある」
「はい」
三つ、というのが腑に落ちない。二つの見当ならついているのだが。
「第一に、ビュコック翁と君が強力に推薦している、ということにして貰わなければならん」
予想通りだ。まぁ当然だろうな。
「分かっています」
「第二に、私が君に何をさせようと文句を言わないことだ。
気にくわないからと言って退役して年金生活、というのは諦めて貰うぞ」
やれやれ、やはりそう来たか。
「・・・まぁ、仕方がないでしょう」
710 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 21:39
「そして第三。君らの結婚式には私を真っ先に呼ぶように」
「・・・は?」
完全な不意打ちだった。ヤンは目を白黒させ、ようやくシトレの真意に気づく。
「ちょ、ちょっと待ってください校長!」
「いいや、聞く耳持たんよヤン生徒」
おかしそうに笑う。ヤンも苦笑するしかない。
ややあって、シトレは言った。真剣そのものの声色で。
「・・・ともあれ、やるからにはベストは尽くす。君も私を全力で支えてくれ。期待している」
「・・・ご期待に沿います」
敬礼。私服姿のシトレも、かつてのように悠然と答礼した。
シドニー・シトレ退役元帥が現役復帰願いを提出したのはその二日後の事だった。
ヤンとビュコックの強力な支持がメディアを通じて流布されると、民衆は熱狂的に彼を迎えた。
・・・これでいいのだろうか?どう思う、グリーンヒル?
困惑とかすかな絶望を感じながら、シトレはその光景を眺めていた。
714 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 23:15
現役復帰したシトレ元帥は、当日付で統合作戦本部長への就任を発令された。
辞令を伝達するトリューニヒトはいつものように過剰なまでに紳士的で爽やかな笑顔を作っていたが、その彼の心情たるや想像するに難くはなかろう。
しかし、ともかくはシトレ新体制の下で軍は再編されることとなったのだ。
まず彼の仕事は、彼を支えるスタッフと実戦指揮官達の選任だった。
彼は就任の翌日、ビュコックを連れてこれまた隠退生活を決め込んでいたクブルスリー退役大将の元を訪れ、出馬を要請した。
もとよりトリューニヒト派の専横ぶりに嫌気がさして退役した人物であり、シトレ自身も復帰組ということもあってもめることもなく快諾、統合作戦本部次長への就任が決まった。
少数精鋭・家族主義を旨とすることとしたシトレは他のスタッフも出来る限り兼任で片づける事とした。後方勤務本部長にはキャゼルヌに就任を打診しようとしたものの、何か思うところもあったのか諦めている。
三日後、発令された主要ポストはこうなっていた。
716 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/07 23:47
統合作戦本部長:シトレ元帥
同次長兼後方勤務本部長:クブルスリー大将
作戦部長:チュン・ウー大将
情報部長兼本部長主席副官:マリネスク中将
宇宙艦隊司令長官兼第5艦隊司令:ビュコック大将
第1艦隊司令:アル・サレム中将
第3艦隊司令:パエッタ中将
アル・サレム提督はアムリッツァで重傷を負って退役していたところを引きずり出してきたものだが、どうせ第1艦隊などあって無いようなものなのでそれでいい、とシトレは考えていた。
チュン・ウー大将は士官学校の教官をしていた縁でシトレに引っ張り出されたものらしいが、この冴えない男のどこがどう使い物になるのか、訝しむ者も多かった。
イゼルローンにも異変が起きている。
ヤンの元帥昇進は見送りとはなったが、イゼルローン方面軍総司令官として回廊方面の全権を掌握する事となった。格としては宇宙艦隊司令長官と同格である。
その下にはイゼルローンとガイエスブルグの二要塞、そして数個の艦隊が付く。ちなみにガイエスブルグはすぐに改名され、フリートマーシャルズ要塞と呼ばれるようになった。
アムリッツァ戦役で戦死したウランフ、ボロディン、ルフェーブル、アップルトンの四元帥(戦死して元帥号を追贈されたのだ)を記念したものということだった。
イゼルローン要塞司令官はキャゼルヌ。フリートマーシャルズ要塞の司令官はヤンが兼任、軍属待遇のままメルカッツが代行することとなった。
方面軍麾下の艦隊は二桁の艦隊番号が振られる事となり、第11艦隊から第14艦隊の四コ艦隊が編成された。
第11艦隊、司令官アッテンボロー中将。旗艦トリグラフ。兵力7000。
第12艦隊、司令官ファーレンハイト中将。旗艦アースグリム、兵力5000。
第13艦隊、司令官フィッシャー中将。旗艦アガートラム、兵力5000。
第14艦隊、司令官モートン中将。旗艦アキレウス、兵力6000。
そしてヤンが手元に置いて運用する要塞機動艦隊が8000。旗艦は当然の如くヒューベリオン。
しめて30000余が、イゼルローン回廊の支配者たるヤン・ウェンリーの手駒だった。
722 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 09:53
第3艦隊司令官に再任されたパエッタ中将と言えば、かつては「強面のパエッタ」と言われた歴戦の勇将である。
アスターテで重傷を負って後療養生活に入り、復帰して第1艦隊の司令官をしていたが、このたびの異動となったものだ。
しかし異動とは言っても、旗艦以下艦艇のほとんどは彼と共に第1艦隊から第3艦隊に転籍され、新造艦の補充も行われた結果第3艦隊は定数通り18000隻を数え、一方第1艦隊は「編成中」と書類に書いてあるだけの存在と成り果てていた。
いったいどういうつもりなのだろう。改めてシトレの呼び出しを受けるまで、彼の頭の中には疑念が渦巻いているだけだった。
シトレは単刀直入に言った。
「貴官と第3艦隊はイゼルローンに駐留して貰いたい」
「はぁ?」
素早く計算する。第3艦隊まで繰り出せば、回廊には5万近い兵力が張り付く事になる。
「しかし、それでは・・・」
「ハイネセンには第1、第5両艦隊が残る事になる。十分だ」
「しかし第1艦隊は・・・」
「編成中、だ。つまりいつかは編成が終わる。存在していることに替わりはない」
目茶苦茶だ、とパエッタは思った。しかし納得もできるような気がした。つまりはそういう強弁をするつもりで、この編成換えをしたのだろう。
更にシトレは続ける。
723 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 10:10
「それに貴官でなければならない理由もあってな」
そう言うと、シトレは皮肉気に笑った。
「率直に応えて欲しい。貴官はヤンをどう思う」
「・・・どういう意味ですか」
「聞いたままの意味だ。ヤンをどう思ってきた?そして今はどう思う?」
パエッタは首を捻りながらも、率直に答えてみることにする。
「・・・現在では尊敬すべき指揮官だと考えています。アスターテでは命まで救われました」
「そうだな。しかしかつてはいけ好かない男だと思っていた訳だ」
「・・・否定はしません」
「そうだ、それでいい」
とシトレ。パエッタは首を傾げる。
「君は艦隊司令官クラスではトリューニヒト派に近いと思われている唯一の人物だ」
「・・・」
「君が回廊に行けば、軍閥化を恐れるハイネセンポリスの政治家諸君の不安を和らげることもできるだろう」
「・・・私がお目付役をするのですか?それは・・・」
「そうだな。今の君なら、ヤンを掣肘するよりその指揮に従う方を選ぶだろう。しかし政治家達はそうは思わない」
あっ、とようやくパエッタは得心した。そういうことか。
「私ならトリューニヒト派も納得し、ヤンの足手まといにもならない、と」
「そういうことだ。ロックウェルあたりを軍監に派遣でもされたらたまったものではない」
大きく頷くと、パエッタは元帥にむけ敬礼した。
「納得がいきました。喜んで赴任します・・・小官としても、ヤンに借りを返す機会ができて喜ばしくあります」
「若いものに、我ら年寄りの意地を見せてやってくれ」
ニヤリと笑い、シトレも答礼する。
724 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 10:34
パエッタ率いる第3艦隊のイゼルローン駐留は、当初悪いニュースとしてヤン一党に受け止められた。
「あのガミガミ親父が来るんじゃ、好き勝手もできんぞ」
というポプラン氏の慨嘆に代表される感想を誰もが持ったものである。
しかし二週間後、イゼルローンに現れたパエッタは彼らの印象を大きく裏切った。イゼルローン方面軍の各艦隊の編成を知らされると、第3艦隊から兵力を裂いて各艦隊を補強するよう申し出たのである。
「私は外様だ。今のところうまくいっているのだから、ここの流儀に従おうと思う」
元部下で今は上官になってしまった「若き英雄」に、彼は悪びれることもなく堂々とそう言い切った。
「しかし、それでは・・・」
「この戦区の全権は貴官にある。私はその指示に従うまでだ」
そして彼は自らの司令部をフリートアドミラルズ要塞に置く事を宣言した。彼なりの配慮らしかった。
しかし彼は別に「強面パエッタ」「ガミガミ親父」を廃業したつもりはないようだった。
「戦力には限界がある。補充兵力にも限りはある。しかし訓練に限りはない。練度こそが我らの寄って立つ所以である」
彼はそう唱え、ことあるごとに厳しい演習を行った。自らの艦隊だけではなく、度々ヤンの司令部に顔を出しては共同演習を要請する。
いつしか彼は「教官」の渾名を奉られるようになっていった。ただ厳しく激しいだけでなく、ヤンやフィッシャーの意見も取り入れ回廊の地勢を最大限生かす訓練計画による演習は、知らず知らずのうちに彼らを精鋭に仕立て上げていった。
725 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 14:24
さて、話は少し戻る。
ケンプ大将とトゥルナイゼン少将が戦死、艦隊は全滅、要塞まで奪われるという考え得る限り最悪の結果となった遠征は、キルヒアイス艦隊のオーディン帰還で取りあえず幕となった。
さすがのラインハルトも出迎える気がしなかったのか、軍港にはミッターマイヤーとケスラーの二人だけが一行を出迎えに出ていた。
「報告を受けた時の元帥閣下のお怒りは、それはもう凄まじかった」
キルヒアイスからの報告を受けた時までは彼は冷静さを保っていたらしいが、しかし通信が切れるや一時間ほど荒れ狂っていたらしい。
ミッターマイヤーが落ち着かせようと試みたが果たせず、オーベルシュタインでは話にならず、たまたまキルヒアイスの様子を聞きにアンネローゼが元帥府を訪ねてきたおかげでようやく収まったのだとか。
「・・・シャフトは自殺したと聞いたが」
「自殺というより自殺強要だな、あれは」
作戦を思いついたシャフト技術大将は要塞が奪われた旨報告が入った翌日に自殺していた。裏で何があったのか、分かったものではない。
「オーベルシュタインも謹慎だそうだ。ビッテンフェルトあたりは大喜びしているそうだがな」
「ほう、それは初耳だ」
「話によると辞表を提出したらしい。どう処断するかは分からんが、ここの所あの男の発言力は低下しているしな」
とミッターマイヤー。ロイエンタールは肩をすくめた。
「・・・私は誤ったのでしょうか?」
キルヒアイスがうつむき、小声で呟く。慌ててミッターマイヤーが彼の肩を叩いた。
「何を言っているのですか、あなたの判断は間違ってはいない。あの態勢から戦端を開けば、被害はなお大きくなったでしょう」
「ミッターマイヤーの言うとおりだ・・・あなたの判断は正しい。それはあの場にいた私が一番良く知っています」
「・・・そうですか。それならいいのですが・・・」
726 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 16:07
元帥府で彼らを迎えた金髪の独裁者は、簡単な報告を聞くと彼らの労をねぎらい、杯を挙げて戦死した将兵に黙祷してみせた。
叱責を予想していた彼らにしてみれば意外ではあった。簡単な会食の間も、ラインハルトは上機嫌ではないものの普段通りの対応を見せていた。
そして夜になり、一行に解散を宣すると、ラインハルトはキルヒアイスだけに残るように命じた。
「・・・キルヒアイス」
「はい、ラインハルト様」
「姉上に随分怒られた」
苦笑混じりにキルヒアイスを見つめる彼の視線は、親友に対するものに戻っていた。
「ケンプやシャフトを批判するのは筋違いだろう、とな。あんなに怒られたのは久しぶりだ。あの時も、俺を叱りはされなかったのにな」
アンネローゼという女性は、本当はただ単に穏和なだけではない。幼い頃は、ともすればトラブルばかり起こす弟をよく叱り飛ばしていたものだ。
何となくその頃のことを思い出したキルヒアイスは、なだめるように頷いた。
「それは大変でしたね」
「全くだ。お前が横にいてくれないものだから、楯にするものがなくて困ったぞ」
そう言うと、ラインハルトは上物のワインボトルを取りだした。
「姉上から、お前が戻ったら出してやれ、とな。最近姉上はお前の心配ばかりしている」
従卒につまみの軽食を用意させると、ラインハルトは元帥用のマントを放り出した。
「・・・それでどうだ。ヤン・ウェンリーの様子は」
「はい、完全にガイエスブルグも掌握している様子でした。正直、あれでは手が出せません」
「だろうな。イゼルローンだけでも手を焼く所を、ガイエスブルグまで使われては・・・ ロイエンタールではないが、十万の大軍を以てしても容易には抜けまい」
「しかし彼らも疲弊の極みにあります。こちらに手を出してくる事もあり得ないでしょう」
「確かにそうだ」
ワイングラスを手に取ると、彼は赤毛の友人を眺めた。
「姉上にも言われた。もはや皇帝すら凌駕する力も手にしたのだし、無理に戦争を続けなくてもいいのではないか、とな」
「・・・アンネローゼ様が?」
意外だった。あの聡明な女性が、わざわざそこまで口にするとは。
727 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/08 16:17
「・・・意外です、あのお方がそう言うことに口を挟まれるのは」
「俺も意外だった。だが、しばらく考えていると、どうも思い当たる節が無くはない」
ラインハルトは悪戯っぽく笑うと、手づからワインをグラスに注ぐ。
「・・・姉上はうんざりされたのだろう。出征したお前の身を案じながら帰りを待ち続ける事に」
キルヒアイスの手が止まる。いや、全身が硬直していた。
次第に顔が赤くなっていく。その様子を、ラインハルトは愉快そうに見つめている。
「・・・お戯れを、ラインハルト様」
「冗談など言ってはいないぞ。いくら鈍い俺でもいい加減理解しようというものだ」
身を乗り出す。赤毛の友人の前髪を指に絡め、さも秘中の秘のように、ラインハルトは囁いた。
「・・・で、どうだ。俺は、姉上を託すに足る人間は、この宇宙にお前しかいないと思うのだが、キルヒアイス」
「・・・!」
狼狽したキルヒアイスは慌てて身を引こうとしたが、髪の毛を引っ張られている状況では如何ともしがたい。
「し、し、しかしラインハルト様、こ、こういうことは、その、相手方の意向というものも・・・」
「だったら何の問題も無いじゃないか。姉上は間違いなく、お前を愛しておられる」
「・・・!!」
それから何がどうなったのか、キルヒアイスはどうしても思い出すことができない。
翌朝気が付いてみると、彼自身はグラスを片手にテーブルに突っ伏していた。
友人にして主君たる金髪の青年は、その足元に転がって寝息を立てていた。
735 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 10:40
その後数日は何事もなく過ぎていった。
キルヒアイスは安堵とそこはかとない失望を感じながら日々を過ごしていた。
しかし彼は知らなかった。ラインハルト・フォン・ローエングラム一世一代の策謀が彼を絡め取りつつあったことを。
政略面での参謀がオーベルシュタイン上級大将だったように、この件に関してもラインハルトには参謀が存在した。
宮廷一の女傑と噂されるヴェスパトーレ男爵夫人マグダレーナその人である。
アンネローゼの親友であり数少ない庇護者だったこの美しく聡明な女性は、どうもかねてより全てお見通しだったらしい。銀河最高の軍事能力を誇るローエングラム元帥府でも、ことこういう話題になると彼女の前では子供同然である(約一名例外がいるが)。
瀕死のキルヒアイスを献身的に看護するアンネローゼの姿に、彼女は今こそ行動を起こす時だと判断した。そして元帥府の門をくぐったのである。
もちろん当初ラインハルトはいい顔をしなかった。いや、困惑したと言うべきだろう。
戦争と政治以外のことにはてんで疎い彼は、そこまで考えたことも無かった。
しかしマグダレーナは説きに説いた。相思相愛の二人が結ばれないのは罪悪だ、と。
「おそれながら元帥閣下、あなたのその態度そのものが二人を隔てているのです。
ああいう気配り優先の二人であればこそ、誰かが背中を押してやらねば」
ラインハルトの人生において、ある意味これほど迫力のある説得というものも無かったろう。彼にしては本当に珍しく、完全に貫禄負けである。
「し、しかし男爵夫人、そういうことであれば百戦錬磨の貴女が適任でしょう」
「あなたでなければならないんです、閣下!」
チェックメイト。ラインハルトは俯き、そして決意した。
そういう責任くらい取らなければならないのかも、と。
「・・・分かりました。しかし私はそういう事に関しては全く疎い。
ここは貴女に教えを請いたいものだが、よろしいか」
「もちろんですわ。銀河最高の名将に手練手管を指南できるなど、身に余る光栄です」
男爵夫人は優雅に微笑んだ。
738 名前:264さん御免なさい。 投稿日:04/07/09 14:03
「閣下。どうなさったのですか?今日はキルヒアイス提督や姉上様とお出かけのご予定だったのではなかったのですか?」
元帥府の広い廊下で金髪の青年を見かけたヒルダが意外そうに声をかける。
ラインハルトは門限破りを見つかった士官学校の生徒の様にバツの悪い表情を浮かべ、彼にしては珍しく歯切れの悪い口調でモゴモゴと事情を説明する。
「いや、私が居ると2人の邪魔になるのではないかと思ってな・・・」
「だからと言ってお休みの日に元帥府に来られる事もないと存じますが」
書類の整理に来た自分自身の事は棚に上げて、そう言って苦笑するヒルダ。
ラインハルトは自らの無趣味を恥じ入るように頬を紅潮させる。
「休日を一人で過ごすなど久しくなかったのでな。何をして時間を過ごせば良いのかわからないのだ」
取り合えず元帥府にやって来たと言うだけで、実際の所、急いで処理しなければならないような事項は特に無い。
勿論、探せば一日潰せる程度の仕事はあるだろうが、今のラインハルトでは碌な判断が出来るとも思えずヒルダは、後日の訂正の手間を省く為にもラインハルトに他の時間の潰し方を提供する必要性を認め、思案気に眉を寄せた。
急に黙り込んだヒルダを訝し気に覗き込むラインハルト。
相手を馬鹿にするような女性ではないとわかっては居るが、何やら自分の恥ずかしいところを見られたようで落ち着かない。
そもそも、ヒルダにそこまで説明する必要はなかったのだな。と思いもしたが後の祭りである。
「そう言えば、先日、処理致しました図書館の件ですが・・・」
739 名前:264さん御免なさい。 投稿日:04/07/09 14:06
「ん?あぁ、貴族どもが読みもしないのに抱えていた蔵書を皆が閲覧できるように新しく新設した図書館の事か」
「はい。その図書館が先日無事に一般公開を始める事が敵いまして、館長より是非閣下の行幸を仰ぎたいとの依頼を受けておりました。足をお運びいただければ館長も喜びましょう」
「ふむ・・・」
元帥府に居ても何もする気になれないであろう事は自分でもわかっているので、ヒルダの提案には抗しがたい魅力を感じる。
ただ無為に時間を浪費する位なら図書館で戦術書や歴史書を紐解いていたほうがよほど有意義であろう。
「そうだな。これから行ってみるとしよう」
踵を返し早速図書館に向かおうと歩を進めていたラインハルトが不意に足を止め振り向く。
浮かべていた苦笑混じりの微笑みを慌てて真面目な表情に取り繕いながら、ヒルダが「なにか?」と尋ねる。
「いや、良かったらフロイラインも一緒に行かないか?折角の休日を一日中元帥府で過ごす事もあるまい」
これはデートに誘われているのかしらと一瞬動揺したものの、恐らく閲覧した図書に関して会話を交わす事の出来る相手を欲しているのだろうと思い直す。
「わかりました、ご一緒させていただきます。すぐに用意致しますので少し待っていて頂けますか?」
「うむ。では表の車で待っている」
そそくさと行ってしまうラインハルトの背中を見送るヒルダは、昨日まで尊敬が九割を占めていた親愛の気持ちに別の感情が少なからず混ざってしまった事を自覚していた。
って感じですか?
取り合えず今思いつきで考えて勢いで書いちゃっただけなんで見苦しいと思った方は無視してくださいね。
そう言えば264さんのお話ってヒルダはまだ出てきてなかったですよね?
740 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 14:06
数日後、策謀は最終段階に入っていた。
キルヒアイスに任せていては全く埒があかないと判断したラインハルトとマグダレーナは、ミッターマイヤ上級大将夫人エヴァンゼリンの協力も仰いでアンネローゼの意思を確認した。
急な話に驚いた彼女だったが、友人の親身の説得と予想外に積極的な弟の態度に、ようやく頷いた。
「・・・ですがラインハルト、わたくしが本当にジークと釣り合うのでしょうか?
わたくしはもう、汚れた身ですから・・・」
「何をおっしゃいます、姉上っ!」
彼がこれほど血相を変えて姉に食って掛かったことは今までに無かったことだったろう。
「キルヒアイスが姉上以外の女性など眼中にないことくらいお分かりでしょうに!
それにキルヒアイスがそんなことを気に掛けるほど了見の狭い男だと本気でお考えですか?
それは彼に対する侮辱ではありませんか?」
「・・・ラインハルト・・・」
アンネローゼは、握りしめられた弟の拳にそっと手を重ねると、愛おしげに撫でた。
「・・・すっかり大人になっていたのですね。わたくしが間違っていました」
「姉上・・・」
「ええ、わたくしはジークを愛しています。彼がわたくしを受け入れてくれるのなら、何を躊躇う必要があるでしょう」
何度も頷くラインハルト。マグダレーナとエヴァンゼリンは、そっと視線を合わせて微笑した。
741 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 14:23
翌日、アンネローゼはキルヒアイスを私邸に招いた。珍しいことに、弟にお呼びは掛かっていない。
その日に何が起きたのか、わざわざ書き記す必要は無いだろう。
その更に翌日。ジークフリード・キルヒアイス元帥は、緊張した面持ちでローエングラム元帥府を訪れた。
既に用件を察していラインハルトは人払いを命じ、ただ一人腹心にして親友に対した。
「・・・」
かつて無いほど緊張しきっているキルヒアイスを、ラインハルトは優しい視線で見つめている。
「・・・ラ、ラ、ラインハルト様」
「何だ、キルヒアイス」
「そ、そ、その・・・あ、あ・・・」
「どうしたんだキルヒアイス、いつものお前らしくないじゃないか」
「あ・・・はい、申し訳ありません」
慌てて頭を何度も下げるキルヒアイス。とうとうラインハルトは笑いだし、固まっている親友の肩を叩いた。
「落ち着け。私を相手にそんなに緊張することはあるまい?」
「・・・はい」
大きく息を吸い込む。キルヒアイスは姿勢を正すと眼を閉じ、そのまま一気に言い切った。
「ラインハルト様、アンネローゼ様と私の結婚をお許し下さい!」
静寂。ラインハルトは無言で、もう一度キルヒアイスの肩を叩いた。
「俺はお前を義兄上と呼ばねばならんのかな?」
「・・・えっ」
「いや、それは無いな。キルヒアイスはキルヒアイスだ」
手を離す。ラインハルトは満面の笑顔で、大きく頷いた。
「俺が許すも許さないも無いことじゃないか?
だが式は盛大にやろう。帝国史上最も壮麗で美しい結婚式にしなければな」
「で、では・・・」
「あぁ、姉上を宜しく頼む、キルヒアイス」
ジークフリード・キルヒアイス元帥とアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人の婚約が発表されたのはその翌日だった。
帝国内は歓呼と賛嘆の声に包まれた。花嫁がかつて皇帝の寵姫だったことを気にする者など、ほとんど存在しなかった。
742 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 14:39
数日後。謹慎中の身だったパウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将は、前もって伺候したい旨連絡した上で元帥府を訪れた。
ここ数日かつて無いほど上機嫌だった元帥府の主は、突然の来訪に怪訝な顔をしながらも引見する旨告げた。
「なに?退役したい?」
突然の申し出に、ラインハルトは眼をむいた。義眼の参謀長は、黙って頷く。
「何が気に入らぬのだ。謹慎の期日ももう数日も残ってはおらぬではないか」
「気に入らないのではありません。もはや帝国に、私のやるべき事は無いと考えたまでです」
「やる事が・・・無い?」
「はい」
オーベルシュタインは聞き取りにくい低い声で、しかしはっきりと言った。
・・・自分はゴールデンバウム王朝とそれに付随する全てを滅ぼそうと考えてきたこと。それがラインハルトの手で一応達成されつつあること。キルヒアイスらの存在があれば、もはや自分のいる意味はないと考えたこと。
ラインハルトは、この冷徹な男でも拗ねる事があるのかと思った。しかし、内実はそうでもないようだった。
「私はかつて申し上げました。光には陰が伴う、と。
ですが、光ばかりの道を歩む覇者がいても良いのではないか、とも最近思うのです」
「・・・」
「あなたは光の中を歩まれるのが宜しいでしょう。
しかし、その近くに私が立っている余地はありません」
「・・・退役して、それからどうするのだ」
「それは・・・」
結局ラインハルトはこの謀将の退役を裁可した。
この件に関しては、彼はキルヒアイスにすら内実を打ち明けなかった。
ただ、この後元帥府でオーベルシュタインを話題にする事を禁じる布告を出している。
また、彼が残した様々な計画書の類は後任の参謀長に任命されたロイエンタールに委ねられることとなる。
そしてその一週間後、オーベルシュタイン退役上級大将の姿はオーディンから忽然と消えた。
751 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 22:12
さぁご都合主義とでも何とでも呼んでくれw
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一隻の小型連絡艇がイゼルローン回廊入り口で拿捕されたのはその一週間後の事だった。
中には二人の男と一匹の犬が乗っていた。パウル・フォン・オーベルシュタイン氏、アントン・フェルナー氏、そしてオーベルシュタインの愛犬である。
・・・今度という今度は極めつきだぞ。
ヤンは間の悪さと運の悪さに目眩すら覚えながら義眼の男の向かいに座っている。
傍らには、いつでもヤンをかばえる態勢にあるシェーンコップが控えている。
尋問室。オーベルシュタインは私服を着ていた。全く動ずる気配もなく、魔術師と呼ばれる男を眺めている。
「・・・亡命を希望している、と取って良いのか?」
「少し違う」
オーベルシュタインは視線を動かすことなくそう言った。
「私を買え、と言っている」
「あなたを買う?」
「そうだ。亡命と言うからには亡命先に何か魅力を感じているべきだろうが、私は自由惑星同盟というものに全く魅力を感じていない」
「・・・言っている意味が分かりかねるが」
「では言い換えるとしよう。
私は、私の理念に近い銀河を実現させる為にここへ来た。自由惑星同盟を勝たせる為にではない」
「・・・」
「まず私にとって理想的だったのは、ラインハルト・フォン・ローエングラムをして銀河の覇者たらしめることだった」
淡々と、だがどこか懐かしそうに彼は言う。
「しかしその未来は消えた。彼は銀河を統一しようという積極的意志を持っていない。
だがそれはそれで構わぬ。問題なのは」
ヤンに視線を向ける。義眼が異様な光を帯びる。
「彼をして銀河の統一に無理に駆り立てるような事態が起きることだ。
彼にとって望ましい未来がねじ曲げられ、別の未来が取って代わる事だ」
752 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/09 22:25
「・・・それはローエングラム侯の為、なのか?」
「違う。彼にとって意に沿わぬ未来は、彼の精神の平衡をも損なうだろう。
そうなるのは望ましくない」
「・・・つまり」
ヤンは思う。不思議な男だ、と。
だが、その言わんとする所は少し見えたような気がしていた。
「銀河帝国の支配者として現在のローエングラム侯が存在するのは良いが、何かが起きて彼の精神が損なわれ、そうして壊れてしまった彼が帝国やこの同盟も支配するようになるのは避けたい、と?」
「さすがにミラクル・ヤン、理解が早い」
オーベルシュタインは陰鬱に笑った。
「今の彼であれば、安定した良き支配者となり得るだろう。
だがあの人格は、一旦平衡を失えば際限なく戦いと流血を要求する」
「・・・」
「そうなってしまった彼が帝国を支配するのも、更に進んで全銀河の覇者となるのも、人類にとって不幸以外のなにものでもない」
この男。
ヤンは目眩が強くなるのを感じた。
この男、神の視点で物を見ているつもりなのか?
「故に、自由惑星同盟には彼と対等に手を携えるだけの国家になって貰わねばならない。
その為に、私はここに来たのだ」
「・・・傲慢な・・・」
「そうか?現に民主主義こそ最良ではないにしても最良、などと言う割に、この国家は腐敗しきっているではないか」
「・・・面白い男だな、あんた」
いつの間にか微笑を浮かべていたシェーンコップが口を挟む。
「あんたの理想の世界を作るため、この同盟を自分の良いように操ろうとしているのか?」
「理想ではなく次善ではあるが」
全く表情を変えず、オーベルシュタインはそう言った。
755 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/10 00:08
疲れた、とヤンは思った。
だが、嘆いてもいられない。
「私の考えでは、あの男は信頼できると思う。その気になればいくらでもあざとい策略を弄することもできる男だが、筋は通っているのではないかな」
亡命者の身の振り方の世話、というイレギュラーな仕事がすっかり馴染んでしまったキャゼルヌが、やれやれと肩をすくめる。
「で、奴さんはどうするんだ?ここの参謀でもして貰うのか?」
「いや、シトレ元帥にお任せしようと思う」
「おい・・・!」
「オーベルシュタインという人物、あれは前線に置いておくより首都で腕を振るわせた方がいいだろう。
彼なら、シトレ元帥やビュコック提督をうまく守ってくれるのではないかな」
「おいおい」
ついにキャゼルヌは笑い出した。
「そりゃ軍にとっては好都合だろうさ。だが政府の横やりを防ぐ為だからってあんな妖怪じみた男をハイネセンに送るなんて、お前さんらしくもない策略じゃないか」
「私もそこは思わないでは無いんだけど」
ヤンは手を組むと、視線を伏せた。
756 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/10 00:09
「今の同盟の不幸は、政府が軍を信用していない・・・いや、信用していないどころか真剣に物事を考えていない点にあるのだと思う」
「それは同感だが・・・」
「政府は自己権力の維持しか考えていない。軍がそれの向こうを張る必要は無いし、シトレ元帥にもその気も無いとは思うんだが、しかし介入や横やりを防ぐだけでも手間だ」
「・・・オーベルシュタインならうまくやる、と?」
ヤンは頷く。
「多分ね。彼は同盟政府や民主主義には価値を見いだしていないかも知れないが、
帝国の良きカウンターパート、人類社会の片翼としての同盟には意義があると考えていると思うんだ」
「だからこそ・・・か」
「そうだね。だからこそ、彼は同盟を守ろうとするだろう。
ローエングラム侯のもと、かつてないほど開明的になった帝国、そのパートナーとしてね」
ヤンは軍というものを必要悪だと考えている。それは今も変わらない。
民主主義国家における軍は、政府の良き道具でなければならないと、そう思う。
だから軍が政府を掣肘したり、蔑ろにしたりすることは許されない。
「しかし、その枠の中で政府に助言し、忠告し、よりよい未来を目指す、そうする権利と義務くらいはあると思う」
だからオーベルシュタインをシトレ元帥のもとへ送ろう、とヤンは言った。
政治体制にも権力にも忠誠心を抱かない彼だからこそ、そうした危うい天秤の護り手には相応しいのだろう、と。
結局、オーベルシュタインとフェルナーはヤンからの紹介状を携え、ハイネセンに向かった。
かれが少将待遇で統合作戦本部情報部次長の役職を与えられたのは、その翌月の事だった。
778 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/10 23:12
私のって、213氏のと比べるとあらすじレベルですなぁ・・・。
ま、いいか。細かいトコは読者の皆さんの脳内で補完してくださいませ。
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銀河帝国軍でこれ以後の謀将と言えばロイエンタールを示すこととなる。同盟軍のオーベルシュタインと並び称される事となるのだが、この二人に共通していたと言われることがある。
それはフェザーンへの態度だった。この二人の軍師はフェザーンという存在そのものをひどく嫌っていた。
「少し考えれば埒もないことだ。
あの程度の経済力で銀河のキャスティングボードを握ろうなどと、烏滸がましい」
そうオーベルシュタインが嘯けば、ロイエンタールもこう皮肉っている。
「愚者は現在の状況が未来永劫続くとでも思っているというが、フェザーンの守銭奴どもはそういう意味で間違いなく愚者だ」
そう言うことだった。二人が偶然にもほぼ同じ頃、口を揃えて言ったのはこういう事だ。
「帝国と同盟の利害がフェザーン排除で一致した場合を、連中は考えたことがあるのか?」
あるだろう、と二人は思う。だが傲慢な事に、フェザーンはそうなる事を自らの知略で回避できると思っている。
・・・しかし我々が本気でフェザーンの抹殺を望み、相手もそう思うように仕向けたらどうだ。
・・・それすらも回避できると思っているのなら、つまり連中は帝国よりも同盟よりも自分たちが聡明だと思いこんでいる事になる。
それこそ愚かな事だ。二人の謀将は、ほぼ時を同じくしてそう思った。
前代未聞の「皇帝亡命事件」が発生したのはこの頃のことである。
781 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 11:15
皇帝エルウィン・ヨーゼフ二世がランズベルグ伯らによって誘拐された時点で、フェザーン自治領領主アドリアン・ルビンスキーはオーベルシュタイン亡命の一件を知らなかった。
彼の諜報網をもってしても、オーベルシュタインの退役は帝国宰相との不和によるもの、としか判断できなかったのである。
後任がロイエンタールという事で彼が油断したというのは無かったろうが、結果として彼の策謀は前提条件から狂うことになる。
帝国側の反応は冷静そのものだった。
「幼帝がどこへ行こうと、何の問題もあるまい」
ラインハルトは簡単にそう言った。
「同盟への亡命も考えられますが」
とロイエンタール。話題にすることが禁じられているので口には出さないが、オーベルシュタインの残した書簡の中で彼はこの可能性を指摘している。
・・・好きになれぬ男ではあったが、やはり異能ではあったか。
「そうだな。それに、後ろで黒狐めが糸を引いておろう」
「既に情報収集を開始しております・・・しかしそうなった場合、奴らは陛下を受け入れるでしょうか?」
「卿はどう見る」
「民主主義という政治体制の負の側面を彼らが体現しているとすれば、恐らくは」
「・・・卿の言は正しい。だが」
ラインハルトはロイエンタールから視線を外した。オーベルシュタインの事は、この新参謀長にすら話していない。
「だが、そうはならぬかも知れぬ。これからが見物だが」
782 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 11:28
一方、ハイネセンにはフェザーン経由で既に一報が届いていた。しかし同盟政府はこの情報を当初は伏せている。無論、軍部に知られる事を恐れたのである。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。統合作戦本部の情報収集能力と分析能力は、この一ヶ月で様変わりしていた。
「・・・これは確かなのか、少将」
「はい」
眼を剥いたシトレを、オーベルシュタインはその半白の義眼で無表情に眺めている。
「既に第一報は政府筋に入っている筈です。
恐らく、対応を決めるまで軍には伏せる気でしょう」
「・・・なんということだ・・・」
シトレは卓上の電話機を取ろうとした。国防委員長へのホットライン。
しかし、オーベルシュタインはそれを制止した。
「お待ち下さい。こちらから連絡を取るのは得策ではありません」
「どういう意味かね」
「こちらがこの情報を既に握っている事そのものを、彼らに気取らせるのはよろしくないかと」
「・・・」
それも一理あるな。シトレは椅子に座り直す。
「では少将、我らはどうすれば良いと思う」
「最善手は一つです。ビュコック提督をフェザーン方面へ急派し、皇帝一行の乗った船を秘密裏に葬り去ればよろしい」
「・・・なるほど」
軍はこのことを知らない。だから秘密裏に抹殺してしまっても、政府としては軍のやったことをとやかく言えはしないだろう。
「しかし、亡命希望者にそういう仕打ちは出来まい。そもそも君だって亡命者ではないか」
「それとこれとは別ですが・・・まぁいいでしょう」
どうせこの策が容れられるとも思っていなかったらしいオーベルシュタインは淡々と頷いた。
783 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 11:40
「ですが、この亡命を受け入れるということは、この国が自らの死刑執行令状にサインをすることと同義です」
「・・・帝国に侵攻の大義名分を与えてしまう、か」
「と言うより、侵攻せざるを得なくなる、と言うべきです。
帝国宰相ローエングラム元帥にその気が無くとも」
それでシトレも察したらしい。さすがに明敏な男ではある。
「フェザーンは我らを共食いさせるつもりか」
「恐らくは」
「ではどうする?政府の方針に真っ向から刃向かうのか?
しかし我が国は文民政府が統治する民主主義国家だ。政府の方針に公然と反発はできまい」
全く面倒な事だ、とオーベルシュタインは思う。
形式を守るために国家を滅ぼすのか?くだらない。
しかし彼が自分に課した仕事は、この手の掛かる国家を守ることでもあった。
彼は無表情のままで口を開く。
「世論を味方につけねばならないでしょう」
「・・・亡命受け入れを拒絶する世論を喚起するのか?」
「はい。政府の決定を覆すことは出来ないかも知れませんが、やるだけはやるべきです。
そのこと自体が後々重要になってくるかと」
沈黙。数秒後、シトレはこの義眼の亡命者を、恐るべき男だと再確認した。
「・・・アリバイを作るのだな」
「ご明察です、元帥閣下」
・・・これで事態は動く。案外予想よりも早くやれるかも知れない。
オーベルシュタインは表情こそ変えなかったが、状況が好転していることを感じている。
この場合の好転とは、同盟政府にとっての好転とイコールではないのだが。
784 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 12:21
あとの仕事はシトレの職分だった。
嫌がるヤンを説き伏せるのは面倒だったが、私を支えると約束したではないか、との殺し文句の前にはさすがのヤンも沈黙せざるを得なかった。
話を承諾したヤンは、フレデリカとファーレンハイトを連れてハイネセンに急行した。緊急の出張という名目であり、政府筋にも秘密にしている。
ヤンがハイネセンに着いた日の午後、トリューニヒト最高会議議長は記者会見を行い、銀河帝国皇帝エルウィン・ヨーゼフ二世の亡命受け入れを発表した。
「このような幼い皇帝に流浪の憂き目を遭わせ、自らは権力をほしいままにするローエングラム侯こそ民主主義の敵であり・・・」
その砂糖菓子のように甘い扇情的な演説がまだ終わらないうちの事だった。
今度は統合作戦本部長シトレ元帥と宇宙艦隊司令長官ビュコック大将、イゼルローン方面軍総司令官ヤン大将、第12艦隊司令官ファーレンハイト中将が緊急記者会見を行ったのである。
シトレは亡命の情報が一週間以上も前から政府にもたらされていたにも関わらず軍にも市民にも通知がなかったことを批判した。
ビュコックは老将らしく、皇帝などの亡命を認める事は今まで帝国と戦って死んでいった父祖将兵に申し訳が立たないと拳を震わせた。
ヤンは、これが我が国と帝国を相争わせる策謀だと主張した。ミラクル・ヤンの言説には市民向けの説得力があった。
最後にファーレンハイトは、間近にラインハルトを知る者として、亡命を受け入れれば間違いなく帝国は同盟に仮借無い攻撃を仕掛けてくると警告した。先に十万隻を失った同盟は、この亡命者のせいで存亡の危機に陥る、と。
785 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 12:43
軍がこれだけの手際の良さと適材適所の役者起用で反撃してくるとは、トリューニヒトらも想像していなかったらしい。
彼らは自派のマスコミを動員して軍部を攻撃した。文民統制を逸脱しているだの、非人道的であるだの、軍人は政府の方針に口を挟むべきではないだの、と。
これらの事全てを、オーベルシュタインは読み切っていた。トリューニヒトらをしてこういう行動に走らせることそのものが彼の目的だった。
最後に最高会議議長の名において決定が下されると、シトレは記者達に淡々とこう語った。
「政府の決定が出た以上、軍はそれに従う。もはや是非もない。
ただ、市民諸君にはこれからも、事態をしっかりと見守っていて欲しい」
この言葉もまた、オーベルシュタインの構想に入っている。それはシトレも承知のことだったが。
786 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 12:44
その一方、軍より宿舎としてあてがわれたホテル住まいのフレデリカは、意外な人物の訪問を受けていた。
今度の一件でシトレの信任を得て中将への昇進と情報部長就任が決まっていたオーベルシュタインだった。何故か居心地の悪そうな表情をしたファーレンハイトも一緒にいる。
父を失って以後、フレデリカは自宅には戻っていない。父も母もいない実家は広すぎたからだった。
「・・・何でしょうか、閣下」
言いながら、明敏な彼女は用件を察していた。
部屋に招き入れようとしたが、オーベルシュタインはそれを断った。
「私は貴女に、個人的に謝罪しなければなるまい、そう思ってここへ来た」
表情を変えることなく、彼は言った。
「貴官の父上を策謀に巻き込み、結果として死に至らしめたのは私だ。
貴官は私に報復する権利がある」
「・・・」
「私は自分の行ったことが間違いだ等とは思わない。あれはやらねばならぬ事ではあった。
故にその事そのものを謝罪する必要性は感じない」
「・・・」
「しかしそれと個人の感情は別だ。公人としての私は全く恥じる所など無いと考えるが、私人として見れば貴官の父上以下多くの関係者を殺した事は間違いない」
そう言って、彼は慇懃に頭を下げた。
「貴官には私に報復する権利がある。ただし、その行使はしばらく待って貰いたい。
事が全て終われば、喜んで報復の刃を受けよう」
先ほどからフレデリカが拳を握りしめているのを、ファーレンハイトははらはらしながら見守っていた。何だってこの男はこういう物の言い方しかできないのだろう?
787 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 12:44
ややあって、フレデリカは顔を上げた。
「何をおっしゃっているのか分かりません」
「・・・?」
「父は自らの信念で決起し、命を落としました。それが正しかったのか間違っていたのかは分かりませんが、私にとって愛すべき父が自らの意思で行動した、そのことを誇りに思っています」
瞳は涙をたたえてはいたが、歯を食いしばって耐える。
「ですから閣下がおっしゃることは的はずれもいいところです。
それに・・・父が誰かに動かされたなんて、そういう事を言う者がいたら私はそちらの方が許せません」
オーベルシュタインはしばし無言だったが、やがてゆっくりと敬礼した。
「そうか・・・詮無い事を言った、申し訳ない」
それだけ言うと、黙ったまま背を向け足早に歩み去っていった。
置いてけぼりを食らったファーレンハイトに、フレデリカはこう付け加える。
「・・・正直、こんなことをわざわざ言いに来る人とは思っていませんでした」
「俺もそうだ・・・意外と言うか、どう言うべきか」
「ですけれど・・・案外、律儀なのかも知れませんね、ああ見えて」
微笑する。無理して笑わなくてもいいだろうに、とファーレンハイトは思った。
789 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 14:07
皇帝の亡命受け入れは決まったものの、同盟の世論は割れていた。
軍人たちやその家族、身寄りを戦争で失った者たちは政府を批判した。都市部や人口の多い惑星では宣伝が行き届いているのか政府支持者が多かったが、田舎に行けば住民の声は圧倒的に政府を批判するものばかりだった。
その結果に、シトレとオーベルシュタインは一定の満足を覚えていた。
そしてそこから先は、帝国が考えることだった。
ヤンがイゼルローンに戻ると、統合作戦本部は再度の軍の再編を内示した。
書類上の存在でしかなかった第1艦隊は廃止され、国内各星系の警備艦艇は治安維持に最低必要な分を残してそのほとんど全てがイゼルローンに送られた。
替わってファーレンハイトの第12艦隊、カールセンの第14艦隊がハイネセンに移駐、統合されて第7艦隊として再編された。司令官はファーレンハイトである。
シトレはそれをただ単に「新造艦艇の配分の問題で、艦隊を入れ替えた」とだけ説明した。
更に、陸戦兵力はそのほとんどがイゼルローン方面に振り向けられている。
790 名前:264 ◆X4sTWrpuic 投稿日:04/07/11 14:16
一方帝国でも事態は動いていた。
帝国宰相ローエングラム候は同盟政府を非難し、幼帝を道具に使うその非人道性を激しく攻撃した。
さらにエルウィン・ヨーゼフ二世の廃位とカザリン・ケートヘンの皇帝即位を発表。
こんどの皇帝は幼帝どころではなく、乳児に過ぎなかった。
名実共にラインハルトこそが帝国の支配者である、誰もがそう確信する出来事ではあった。
更に翌月、帝国軍は本格的な同盟領侵攻計画を発令する。
参加兵力10万隻余を数えるこの作戦は「神々の黄昏」と命名された。
歴史はその流れを速めていた。
後に「常勝と不敗の争覇戦」と称される決戦の幕が、静かに上がろうとしている。