【勝手に】銀河英雄伝説IF物語【妄想】@SF・FT・ホラー 適当にまとめ 〜短編集〜 Vol.2

短編/小ネタ集

546 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/12/25(月) 22:38:40
「レンネンカンプ弁務官をとらえる功は卿にゆずる。正統政府軍から10人ほど連れて行くのだ。」
「ですが、閣下・・・」
「早く行くのだ! シュナイダー。砂時計の砂は、この際、ダイヤモンドよりも貴重だ。」
「は!」
 シュナイダー中佐が10人ほどの兵士をしたがえて姿を消すと、残る20人ほどを率いたメルカッツが階段の踊り場に老身をさらし、人血で磨き上げられた戦斧を挑発的に一振りして見せた。
「ほほう、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツの前に立つ者はもういないのかな?」
 ことさらにメルカッツは豪語した。シュナイダーがレンネンカンプをとらえる時間を作り出さなければならない。
 
「メルカッツ!? ヴァーミリオンで死んだはずではなかったのか?」
 メルカッツはヘルメットのフードを上げて見せた。そこに立っていたのはまさしく老練の名将メルカッツその人である。

(なんでこんなところに?)(どういうことだ?)(メルカッツ提督は陸戦の心得があったのか?)
 
 
547 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/12/25(月) 22:44:12
 メルカッツの名を知る兵士たちが戸惑い停滞する中、ひとりの若い兵士が、豊かな決意と貧しい経験をあらわに階段を駆け上ってきた。戦斧を振りかざす動作はエネルギーに満ちていたが、メルカッツには無駄だらけに見える。

 戦斧が激突した。勝敗は一瞬で決し、一方の手から戦斧が飛んで、 床の上で車輪のように回転し、それはやがて直立して静止した。原始人のやみくもな攻撃を武術の練達がもて遊んだのである。

 驚きの声と嘆息が敵味方を問わず上がる中、戦斧を喉元に突きつけられた若い兵士は、
メルカッツの柔らかな微笑を悪魔のそれに等しく感じた。
「ところで卿は若いが、恋人はいるのかね?」
「恋人・・・・・?」
「どうなのかね?」
「いえその、一応おりますが・・・」
「ほほう。それでは、死に急がない方がよいだろうな・・・」
 戦斧の柄で軽く胸を突かれただけであるが、若い兵士は階段を転げ落ちた。
 味方が抱き止めた時、彼は逆立ちの姿勢であり、下半身にまとっていた物はすべて失われていた。
 
553 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/12/30(土) 22:47:09
「レンネンカンプ・・・えーっと、上級大将、じゃったな。
 彼をとらえる功は貴官にゆずる。ローゼンリッターを連れて行くのだ。」
 
「閣下・・・なぜこんなところに?」
 
「レンネンカンプに話したいことがあってな。意外にもすんなり通してくれたわい。
 そんなことより早く行くんじゃ、シェーンコップ中将。わしに策がある。
 砂時計の砂は、この際、ダイヤモンドよりも貴重じゃて。」
 
「策があるとおっしゃるなら、お任せいたしましょう。」
 
 シェーンコップがローゼンリッターをしたがえて姿を消すと、ビュコックが階段の踊り場に老身をさらし、シェーンコップから借りた、人血で磨き上げられた戦斧を挑発的に一振りして見せた。
 
「おぉぉぉぉっとっ、とぉぅぅうー」
 ビュコックの体は自ら振り回した戦斧の勢いに負けて、大きくよろめいた。
 それをどうにか立て直して、豪語する。
「ふぅ・・・
 さてと、アレクサンドル・ビュコックの前に立つ者はだれじゃな?おらぬのかな?」
 
 ローゼンリッターがレンネンカンプを捕らえる時間をビュコックが作り出さなければならない。
 
 
554 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/12/30(土) 22:51:04
「アレクサンドル・ビュコックだと? 同盟の宇宙艦隊司令長官だった男ではないか。貴様、カイザーに赦していただいた恩を忘れたか。」
(そうだ、本来ならとっくに死刑ではないか)(ヨボヨボの老人が何を血迷ったか)(カイザーのお慈悲をありがたいと思わんのか)

「おぉ、そう言えば、そんなこともあったのう。はは、この通りの年寄りじゃて、物忘れが激しくていかん・・・」
 ビュコックは座り込んだ。
 
「敵するに足らぬ相手だ。適当にあしらって拘束しろ。」
 隊長らしき男が言うと、ひとりの若い兵士が手錠を持ってビュコックに近づいた。
 老人と目を合わせた瞬間、一発の平手打ちが、兵士のヘルメットにわずかな衝撃を与えた。
 兵士には意外なことだったが、ビュコックは傷心しており、痛めた手をさすりながら声を上げた。

「どこからでもかかってこいという気概で、わしはここにおるのに、手錠とは何じゃ!
 老人をバカにするにもほどがある! まったく最近の若い者は、礼儀というものを知らぬのか!」
 
「こうるさいジジイだ。いいから、手を出しな。」
 手錠をかけるために兵士が手をとろうとした瞬間、ビュコックは渾身の力で、立ち上がりながら体当たりを喰らわせた。意外な奇襲を受けた若者は階段を転げ落ちた。
 
 
555 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2006/12/30(土) 22:55:50
「ええい、この際かまわん。殺ってしまえ!」
 隊長らしき男の命令はしかし、兵士たちを一歩も進ませることができなかった。
 老人を殺すのが惜しかったのではなく、バカらしかったからである。
 今度は集団で老人を捕らえようと、それだけのことを決するために20秒ほどを要した。
 
 10人ほどの兵士が一気に駆け上がってきた。
 屈強の装甲兵に囲まれながらも、ビュコックは彼なりに必死の抵抗を試みた。
青二才の無礼者どもが! わしを殺せぇえ! わしを殺せぇぇえ!」
 
 押し包まれながらも老人は階段ホールの扉にもたれかかり、さらには座り込み、開けさせようとしない。
 ささやかな抵抗が長く続くわけもなかったが、しかし、鳴動が起こった。
 
 レンネンカンプ捕縛に全戦力を投入していたローゼンリッターが短時間で事を成就し、エレベーターを含む退路を完全爆破して逃走したのである。兵士たちはビュコックを拘束したが、自分たちが老人に敗北したのだとは、知る由も無かった。
 



 
655 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:45:06
銀河英雄六六宇宙艦隊物語伝説
1「栄光」
 宇宙暦753年、帝国暦444年。一人の帝国貴族が死を賜った。彼の名はセバスティアン・フォン・リューデリッツ伯爵。イゼルローン回廊における恒久的な軍事要塞の建造計画の指揮を執っていた人物である。
 数年間にわたって帝国の国家予算の20%(軍事予算ではなく要塞の建造費用だけで、である)を費やすというまさに国家的事業である。成功すれば帝国暦436年の第2次ティアマト星域会戦の大敗北により人的資源が不足していた宇宙艦隊の勢力低下を補いえたかもしれない計画であった。
 しかし工事が半ばまで進んでいながらも試験的に起動した原子炉が暴走、数万人の作業員及び建造資材ごと小規模な新星爆発を起こした。責任を取らされたリューデリッツ伯爵は自裁し、その計画は銀河の歴史から葬り去られた。
 これ以降、銀河帝国及び自由惑星同盟は「宇宙空間の戦闘を制するものは宇宙艦隊のみ」との理念を確固たるものとし、宇宙艦隊の整備にその人的資源と軍事予算を注ぎ込むこととなる。
 
 宇宙暦794年、帝国暦483年。
 自由惑星同盟宇宙艦隊司令長官たるロボス元帥はみずからが主導し、整備に邁進してきた宇宙艦隊の雄姿に満足の表情を浮かべていた。
 第1、第3、第5、第7、第9、第11の番号を割り振られた六個主戦艦隊。司令官はそれぞれクブルスリー、ルフェーブル、ビュコック、ホーウッド、アル・サレム、ルグランジュの各中将。
 そして第2、第4、第6、第8、第10、第12の番号を割り振られた六個高速艦隊。司令官はそれぞれパエッタ、パストーレ、ムーア、アップルトン、ウランフ、ボロディンの各中将。
 通称「六六宇宙艦隊」である。
 それぞれの艦隊が優れた攻撃力、防御力、機動力と猛訓練により宿敵銀河帝国軍の三倍の命中率を備え、彼らが擁する九個主戦艦隊、九個高速艦隊の計十八個艦隊からなる銀河帝国宇宙艦隊を凌駕しうるものであった。
 
 
656 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:45:35
 宇宙暦795年、帝国暦486年。銀河における覇権を争い、遂に自由惑星同盟銀河帝国の間に有史以来最大規模の大会戦が行われた。その舞台はイゼルローン回廊の同盟側出口に近いティアマト星域であった。
 ティアマト会戦は同盟軍のヤン准将率いる巡航艦を主力とする分艦隊の近接雷撃戦から始まった。数に勝る帝国軍は同盟軍を挟撃すべく主戦艦隊群と高速艦隊群に戦力を二分していた。しかし開戦初頭に高速艦隊群はヤン分艦隊の奇襲により大打撃を受けた。ことに司令官の一人シュターデン中将は旗艦ごと一陣の閃光と化すなど艦列は混乱を極め、帝国軍は戦力の半分が遊兵と化す醜態をさらした。
 他方、ロボス直卒の主戦艦隊群と宇宙艦隊司令官兼総参謀長のグリーンヒル大将率いる高速艦隊群は帝国軍の主戦艦隊群を包囲殲滅することに成功した。
 帝国軍は司令長官ミュッケンベルガー元帥が戦死し、ミュッケンベルガー、フォーゲル、エルラッハ、シェムーデ、ハウサー、ゼークト、シュトックハウゼンの七個主戦艦隊、シュターデンの一個高速艦隊を提督と共に失い、ファーレンハイト、レンネンカンプらの高速艦隊を撃破されるという大敗を喫した。一方の同盟軍はいずれの艦隊も小規模以下の損害にとどまるという歴史的な大勝利であった。
 帝国軍で唯一ローエングラム大将率いる主戦艦隊は善戦し、レンネンカンプ、シュタインメッツ等敗残した帝国軍艦艇の脱出路の確保に成功した。ウランフ中将らは戦果の拡大を求め追撃の許可を要請したが、ロボスは「既に勝負はついた」と許さなかった。これには主戦場で大勝を収めた以上、余分な追撃戦で万一損傷を受けては勝利の功名に傷がつくと判断したためである。この慢心により残余の帝国軍艦艇は辛くも生還できたのである。
 一敗地にまみれた帝国軍はミュッケンベルガーらティアマト星域に斃れた将兵を「護国の英霊」として顕彰し、帝国軍宇宙艦隊を壊滅の危機から救ったローエングラムを英雄として称え上級大将に昇進させることで戦意高揚に成功した。以後、スローガン「ミュッケンベルガーに続け」を合い言葉に復仇を近い、新艦隊の整備に邁進していくのである。
 
 
657 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:48:06
2「暗雲」
 宇宙暦796年、帝国暦487年。先年の大勝により統合作戦本部長への就任を自他共に確実視していたロボスは、現任者のシトレ元帥及びトリューニヒト国防委員長と折り合いが悪くお預けを食らっていた。その不快感と長年の持病、なによりも戦勝による慢心は彼の精神に悪影響を与え、幕僚のフォーク准将らの専横を招くなど指揮統制にかげりが見られるようになってきた。
 グリーンヒルやビュコックら良識ある者たちは眉をひそめたが、現に戦局が有利に展開している以上、作戦指導に異議を唱えることは控えていた。もっともヤンやアッテンボロー准将ら若手の将官たちの言によれば「負ける前から負けた時のことは考えないもの」だと云うことであったが。
 一方ティアマト星域会戦で大打撃を被った帝国軍は、戦力再建の時間稼ぎを図るために同盟領アスターテ星域へ限定的な攻勢をかけた。戦力はローエングラム率いる一個増強艦隊のみ。
 その情報を入手した同盟軍は先の会戦で損害の少なかった第2、第4、第6の計三個艦隊を主力とした戦力を迎撃に向かわせた。しかし総司令官のロボスは「戦況を大局的に見るため」と称して後方に留まり、実戦指揮は各艦隊司令官に預け徹底振りを欠いた。
 それに対し帝国軍はローエングラムの一糸乱れぬ統制により一時的に分散した同盟の各艦隊を各個撃破、パストーレ、ムーアは戦死、パエッタは重傷を負うという大勝利を収めたのである。
 
 
658 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:49:07
 この戦功によりローエングラムは元帥に昇進すると同時に銀河帝国宇宙艦隊司令長官に任命され、対同盟作戦の実戦レベルにおける全権を委任されることになった。
 彼は早速自分の股肱の部下であるキルヒアイス、ミッターマイヤー、ロイエンタール、ケンプ、ビッテンフェルト、メックリンガー、ワーレン、ルッツらを中将に昇進させ、新造艦隊の司令官に任命し戦力の回復に努めた。
 他方、同盟軍は第2、第4、第6の各艦隊の残存兵力を糾合して新たに第13艦隊を編成した。司令官はアスターテ会戦で最終段階において善戦し、同盟軍の文字通りの全滅を阻止したヤン少将である。彼はその功績により中将に昇進する。
 さて、ローエングラムと宇宙艦隊総参謀長オーベルシュタイン中将は戦略的後退による態勢の建て直しと同盟軍を懐に誘い込んで退路を断ち、これを殲滅する作戦計画を立案。イゼルローン回廊及び回廊の帝国側出口周辺の諸星域を放棄した。その一方でキルヒアイスにワーレン、ルッツの両艦隊を加えた三個艦隊の指揮権を預け、侵入してくるであろう同盟軍の兵站破壊を命じる。
 帝国軍の後退により水ぶくれ的に戦線を拡大する同盟軍は第3、第5、第7、第9の四個主戦艦隊、第8、第10、第12、第13の4個高速艦隊からなる計八個艦隊を動員、イゼルローン回廊を突破し帝国領へ侵攻した。しかし各艦隊は逆にキルヒアイスらに補給線を遮断され、孤立状態に陥る。日々乏しくなっていく燃料と資源。
 ヤン、ビュッコク、ウランフらは何度も撤退と増援を求めるが、慢心した宇宙艦隊総司令部はわずかな護衛をつけたスコット輸送艦隊を送るのみであった。キルヒアイス艦隊の攻撃は遂に同盟軍の命綱であった輸送艦隊に及び、多数の輸送艦が破壊される。
 ここに至り、遂に最前線の惑星リューゲンに駐屯するウランフは戦線の放棄を決定、脱出の準備を行う。しかし早くも来襲してきたビッテンフェルト艦隊に力及ばず壮絶な戦死を遂げる。第10艦隊の艦艇の半数以上を撃沈されてしまった。
 そして、銀河帝国首都ヴァルハラ星系の宇宙ドックでは無数の新造艦艇が進宙の時を迎えようとしていた。
 
 
659 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:50:11
3「奮迅」
 惑星リューゲンを奪回し、各地の同盟軍占領地に猛攻をかける帝国軍。ビルロスト星域、ドウェルク星域、ヴァンステイド星域など至る所で同盟軍の艦隊は後退に後退を重ねていった。
 勢いに乗る帝国軍の進撃は早く、ここに至って戦力分散の愚を察した同盟はアムリッツァ星域からイゼルローン回廊に至る宙域を絶対防衛圏に設定し、戦力を集結させる。
これに対し帝国も宇宙艦隊の全戦力を投入し同盟の絶対防衛圏打通を図る。
 戦いは乱戦となり、ロボスにもローエングラムにも戦況は混沌として読めなかった。同盟軍はウランフ、ボロディンらを失いながらも歴戦のビュコック率いる第5艦隊、ヤン率いる第13艦隊を中心に善戦した。
 一方の帝国軍の攻撃は細かい戦術を欠いたが、それはあまりにももろい同盟軍の壊走につられて高速度で進撃を行ったが為に物資の補給が間に合わず、短期決戦を求められていたからである。最終的に両雄が撤退を決意した時点で、帝国領侵攻に始まる一連の戦闘により同盟は第3、第7、第8、第9、第10及び第12の六個艦隊、帝国はキルヒアイス、ケンプ、ビッテンフェルト、メックリンガー、ワーレン及びルッツの計六個艦隊を喪失していた。
 戦術的には辛くも引き分けた同盟であったが、主力艦艇のみならず撤退の過程において無数の補助艦艇を喪失していた。建艦能力の差を考慮すると同盟の損失した戦力は帝国のそれに比し著しい打撃であり、戦略的には完敗であった。一方の帝国は日増しに艦艇を就役させ、その戦力は同盟を完全に上回りつつあったのである。
 この敗戦により統合作戦本部長シトレ元帥と、宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が、ともに辞任した。ロボスは自らの失敗によって競争者シトレの足をも引っぱったのだと噂された。それぞれの後任にはクブルスリー、ビュコックが就任し、それにともなって大将に昇進した。
 
 
660 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:52:56
4「激浪」
 大激戦となったアムリッツァ会戦の余韻覚めやらぬ宇宙暦798年、帝国暦489年。帝国軍は「ラグナロック作戦」を開始した。
 ローエングラム、ミッターマイヤー、ロイエンタール各艦隊に加えてアムリッツァ星域会戦で損害を受けたビッテンフェルト、メックリンガー、ワーレン、ルッツ、ティアマト星域会戦で損害を受けたファーレンハイト、レンネンカンプ各艦隊は再編され、ミュラー、シュタインメッツ、ケスラー、アイゼナッハ各艦隊が新編されており総戦力は十三個艦隊に達していた。対する同盟軍宇宙艦隊は激闘のダメージから回復しきっていない。帝国は遂に同盟の勢力圏であるポレヴィト星域へと侵攻を開始する。
 全戦線で同盟の戦力は後退を余儀なくされていた。
 ここに至り、同盟は艦隊決戦の勝利を背景に帝国との講和を探る戦略に切り替えた。
 宇宙暦799年、帝国暦490年、帝国軍はランテマリオ星域への侵攻を図る。フェザーン方面より侵攻するローエングラム、ミッターマイヤー、ミュラーファーレンハイト、ビッテンフェルト、ワーレン、シュタインメッツの七個艦隊とイゼルローン回廊より侵攻するロイエンタール、ルッツ、レンネンカンプの三個艦隊がランテマリオ星域で合同する作戦である。ケスラー、アイゼナッハ、メックリンガーの三個艦隊を予備戦力にあててもなお十個艦隊が正面戦力として動員されているのである。
 これに対し、同盟軍の戦力はリューカス星域から出撃するパエッタ、ビュコック、ルグランジュの指揮する第1、第5、第11、及びモートン中将、カールセン中将が指揮する、期待を背負って新編された第14、第15の計五個艦隊とジャムシード星域から出撃するヤン大将の第13艦隊を分進合撃させ、ランテマリオ星域に侵攻する帝国軍を各個撃破する事を決定する。
 同盟軍の矢面に立ったのはミッターマイヤー艦隊であった。バイエルライン、ドロイゼン、ビューロー、ジンツァー各分艦隊の猛攻に被害担当のマリネッティ、ザーニアル、ビューフォート各分艦隊らを脱落させられ丸裸にされていく同盟軍主力艦隊。
 ようやく恒星ランテマリオへ到達した彼らが見たものは、ローエングラム率いる帝国の大艦隊であった。
 
 
661 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:54:59
5「弔鐘」
 合同に成功したビュコック艦隊とヤン艦隊。
 しかし、帝国軍の宇宙艦隊は圧倒的な戦力を有していた。ビュコックは先制攻撃により帝国軍を分断する事を目論むが、帝国軍の熾烈な砲火の前に一隻、また一隻と沈黙を余儀なくされる。
 ついに撤退を決断するビュコック。ヤンは同盟軍の撤退を援護するため殿軍に立ち、帝国軍数個艦隊の猛攻をただ一個艦隊で支えきった後に脱出し、その名声を不動のものとした。
 ランテマリオ会戦で再起不能の打撃を負った同盟軍宇宙艦隊には、もはや戦局を盛り返す力はなかった。残り少ない宇宙艦隊である第1艦隊は単独行動中に奇襲にあいパエッタら司令部が壊滅、残存艦艇は行動力を失う。
 遮るものの無くなった帝国はバーラト星系直前の最後の拠点、バーミリオン星域攻略を開始した。残されたただ一つの機動戦力となった第13艦隊は司令官ヤン元帥指揮の下、ローエングラム打倒のため出撃する。──それは自由惑星同盟軍、最後の宇宙艦隊の出撃であった。
 そして自由惑星同盟軍と銀河帝国軍の最後の艦隊戦、バーミリオン星域会戦が開始された。
 第13艦隊は「不敗の魔術師」ヤンの卓越した指揮の下、アッテンボロー分艦隊の突撃、フィッシャー分艦隊の機動、マリノ分艦隊の陽動と合同して緒戦でシュタインメッツ、レンネンカンプ、ワーレン各艦隊、ゾンバルト、トゥルナイゼン、カルナップ、ブラウヒッチ各分艦隊らを壊滅もしくは撃破させ、総旗艦ブリュンヒルトに迫るもそれが攻勢の限界点であった。
 ミュラー艦隊の増援によりローエングラム艦隊と挟撃されたヤンは旗艦ヒューベリオンとともに戦死し、第13艦隊は壊滅。出撃した全艦がバーラト星系へ還る事はなかった。
 
 
662 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/20(火) 21:55:47
 同月、帝国軍はバーラト星系へ侵入、同盟政府に対し無条件降伏を要求した。トリューニヒトらは黙殺するが、そのツケはすぐに回ってくる事になった。
 その日のうちにミッターマイヤー艦隊は宙対地ミサイルを発射した。次の瞬間、凄まじい閃光と共に統合作戦本部ビルは粉砕されていた。帝国軍の単なる脅しではない、軌道上からの対地表攻撃。これにより同盟政府は降伏を決定する。ロックウェル大将らは保身を目論みクーデターを起こすがビュッコク元帥ら降伏派に鎮圧された。
 こうしてジョアン・レベロを暫定政府首班とした自由惑星同盟銀河帝国に降伏、バーラト星系の自治権こそ残ったものの武装解除された傀儡政権であり、もはや民主共和制の理念は失われていた。
 宇宙暦800年、同盟に残されていた最後の艦隊である第1艦隊は惑星ハイネセン上空において旧同盟市民への見せしめの意味も込めて軍事演習の標的艦となり全艦撃沈。六六宇宙艦隊計画で最初に整備され最後まで生き残り、その栄光から弔鐘までを見届けた艦隊が軌道上に散華した。
 
 その後、帝国内に相次ぐ反乱においてバーラト自治政府も帝国に味方するという条件で限定的ながら軍備を再建。
 やがて「叛逆のレヴァイアサン」と称されるロイエンタール元帥率いる反乱軍との戦いでヤンの養子ユリアン・ミンツ宙将補が台頭、養父の遺志を受け継ぎ民主共和制を再建するという出来事もあるのだが、それはまた別の物語である。
 
 
668 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 20:58:18
「独立のキメラ」
 銀河帝国自由惑星同盟の戦争が終わって数年。ローエングラム王朝による新体制をよしとしない勢力が辺境に存在した。彼らの闘争の目的は過去の体制の復活ではなく、議会の開設、憲法の制定など銀河帝国立憲君主制への方向変換だった。
 構成員にはメルカッツ上級大将ら銀河帝国旧王朝、アッテンボロー中将らかつての自由惑星同盟はおろかボリス・コーネフら独立を失ったフェザーン自治領の出身者もいた。
 彼らはその一見雑多ともいえる組織から半ば自嘲を込めて複数の獣の姿を合成した魔獣にたとえ「独立のキメラ」を名乗っていた。
 そんな折、ミンツ三等宙佐らバーラト自治政府内の協力者より、
銀河帝国の旧同盟領における最大の拠点たる惑星ウルヴァシー基地に「惑星を焦土と化す」とも称される熱核兵器コバルト爆弾搭載のIFSM(恒星間ミサイル:Inter Fixed Star Missile)が極秘裏に配備されるとの計画がもたらされた。
そ れは帝国のビッテンフェルト統帥本部総長、ワーレン旧同盟領軍管区司令官、エルスハイマー内務尚書ら強硬派による自治政府への威圧を目的としたものである。これが確かならば帝国と自治政府との和約に反する事項である。
 だがその情報をもたらしたのが自治政府内の人物であることが明かされれば、国民レベルで和解にひびが入り、結果的に帝国軍の全面侵攻を招きかねない。帝国では自由惑星同盟の残滓たるバーラト自治政府を完全に滅ぼすべしとの意見も存在するのである。
 摂政たるヒルデガルド皇太后、ミッターマイヤー国務尚書ミュラー宇宙艦隊司令長官ら帝国内の穏健派は反対するであろうが、彼らとの個人的な友誼に期待するわけにもいかない。
 
 
669 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 20:58:56
 解決策はただ一つ。極秘裏に封鎖線を敷き、フェザーンよりウルヴァシーまでの経路間においてIFSMを奪取ないしは破壊することである。
 無論、海賊行為として双方から討伐の対象になるであろう。しかし帝国もしくは自治政府の人間が関わっていると判明しては元も子もない。かくして「独立のキメラ」は孤独な戦いに赴くのである。
 アッテンボローの集中砲火及び擬態逃走とメルカッツの軽快な艦艇を利用した堅実な用兵を混成して構築される「キメラ」部隊の戦術は歴戦のはずの帝国軍の将兵を翻弄した。旧王朝最高の用兵家と旧同盟の詐欺師と称された提督の連合は、彼らにかつての悪夢を思い出させたのである。そしてとうとうクロイツェル曹長らの小部隊はIFSMを搭載した輸送艦を発見、無人の恒星系に廃棄してその存在を消滅させたのであった。
 この戦いを最後に「独立のキメラ」の存在は公式記録から消えた。ただしバーラト自治政府の要人ミンツ氏の夫人のファースト・ネームや、
 第一回帝国議会でビッテンフェルトを(発言時間を超過して)弾劾した無所属議員、フェザーンの某大企業の社長が所有する複数の口座名義の一つ、旧帝都オーディンの郊外に建てられた墓碑の氏名等にキメラ部隊所属者のそれと同一の物が散見されることは当時から判明していた。
 しかしそれらについての情報は第一級資料として封印され、関係者が生存している間に公的に発表されることはなかったのである。
 
 
670 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 21:00:36
「薔薇のメロス」
 戦争末期、自由惑星同盟領の各星系の住民たちは等しく銀河帝国軍の侵攻におびえていた。それは「帝国軍に逮捕された市民は奴隷階級に落とされ農奴か鉱山労働者として強制労働に徴される」という噂の恐怖によるものだった。
 各星系政府は、同盟政府に対し彼らの避難のため人員を派遣することを求めた。
 しかし宇宙艦隊要員は帝国軍との決戦のため割くことができず、代わりに無頼を囲っていた陸戦隊員たちが用いられた。彼ら陸戦隊員は先年の帝国領侵攻の際、人員のみならずその信用すらも失っていた。
 実際に責められるべきは補給路の確保を怠った上層部であるが、各惑星に駐留し住民たちと現場で実務──そして「暴徒の鎮圧」という名目の虐殺にあたらされた陸戦隊員たちが直接の憎しみを向けられた為である。
 そしてとうとう帝国軍の侵攻が始まった。帝国軍が同盟軍主力との決戦を優先したこともあり、各惑星で住民の避難は順調に行われた。
 しかしとりわけ精強で名高い「薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)」らが派遣されたポレヴィト星域は不幸にも帝国軍の進撃路に設定されていたのである。軌道上より降下する無数の揚陸艦
 同盟軍総司令部は速やかな撤収による戦力の保存を命じた。しかし前連隊長であり、この方面の避難作戦を統括するシェーンコップ中将、そして現連隊長リンツ大佐以下連隊員らは避難する住民たちの盾となることを決意した。
 もはや民間人を犠牲にすることに耐えられなかったのだ。連隊長代理ブルームハルト中佐らを住民の護衛として随行させると、残余の人員・装備全てを集め防衛線を築き上げた。
 
 
671 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 21:01:01
 「薔薇の騎士連隊」が担当星域住民の避難が完了する三日間までに行った防衛戦は、後世の地上戦の教書に必ず栄光の二文字とともに記載される特筆すべき勇戦であった。複数の装甲擲弾兵連隊を含む帝国軍陸戦部隊との激戦によりシェーンコップ中将ら連隊員はほぼ全滅、生存者はリンツ大佐らわずかに200余名であり、その全てが負傷者であった。
 一方避難船団の航路も順調には行かなかった。迂回路を探していた帝国軍哨戒部隊に発見されたのである。輸送船の速度は遅く、補足されるのは時間の問題である。
 護衛部隊の指揮者であったブルームハルトは捨石となることを決意、志願者らとともに強襲揚陸艦イストリアに乗り込み突貫、哨戒部隊旗艦の中で全員戦死を遂げた。その混乱の隙に避難船団は離脱に成功、無事安全な星域へ避難したのだ。帝国軍陸戦部隊の指揮官の一人であったリンザー中佐は戦後、敵ながら彼らをこう評した。
「酷な言い方だが、自由惑星同盟軍の宇宙艦隊は艦隊決戦そのものを目的として肥大化し自滅した。一方、『薔薇の騎士連隊』は最後の一兵に至るまで『民主国家の軍隊が存在する意義は民間人の生命を守ることにある』という使命をまっとうしたのだ」。
 彼らは護るべきもののために命を賭して走り抜いたメロスたちだったのである。
 
 
672 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 21:04:35
「空戦のガルーダ」
 自由惑星同盟軍において宇宙戦闘の主役は宇宙艦隊であるとみなされており、単座式戦闘艇スパルタニアンを始めとする宙戦部隊はその存在を軽視されていた。
 「単座式戦闘艇無用論」を唱え、その機能を哨戒もしくは損傷艦の救助といった補助任務に特化させるべきと主張する用兵論者もいた。要するに艦隊決戦の補助的役割しか認めなかったのである。
 若き撃墜王ポプラン中尉、コーネフ中尉のコンビはその風潮を快く思っておらず、スパルタニアンで宇宙艦隊に対抗する戦術の研究を行っていた。
 しかし待ちに望んだ大会戦、ティアマト会戦において彼らは帝国軍の単座式戦闘艇ワルキューレとの前哨戦闘に専念するよう命令を受けた。
 歯がゆい思いをしながらも彼らはその技量を十二分に発揮、撃墜スコアを伸ばしていった。その空戦技術は卓越したものであり、向かうところ敵無しで戦闘宙域を駆け巡る姿は古代神話の神鳥「ガルーダ」にたとえられた。
 
 
673 名前:名無しは無慈悲な夜の女王 投稿日:2007/03/21(水) 21:06:17
 しかしその後戦況は悪化、アムリッツァ会戦で僚友のシェイクリ、ヒューズ両大尉を喪ってしまった。死線の最中にも戦功を挙げ、少佐に昇進して自らの空戦隊を率いるまでになった二人は僚友に報いるためにもスパルタニアンによる艦隊撃破を誓う。
 やがてランテマリオ会戦で同盟軍は艦隊戦力において劣勢に陥り、二人はその対策として対艦重武装を施したスパルタニアンによる敵艦隊の撃破を進言する。しかし頑迷な総司令部はあくまでも拒絶する。逆に彼らは艦隊防空に専念するよう命じられてしまった。
 バーミリオン星域の会戦はヤンとローエングラム両司令官の艦隊決戦として語られることが多いが、単座式戦闘艇部隊にとっても決戦であった。
 帝国軍のワルキューレ部隊の指揮官ホルスト・シューラー中佐はポプランらの戦術を綿密に研究し、対策を講じていたのである。戦艦の砲火を縫うようにして華麗に乱舞し、そして散華する神鳥と戦乙女たち。
 死闘を乗り越えたとき、ポプランは手塩にかけて鍛え上げた靡下の空戦隊の半ばのみならず、生死を共にしてきた親友のコーネフまでも喪ってしまっていた。
 こうしてガルーダの翼はたたまれ、ポプランの戦争は終わった。彼は一介のパイロットながらも中佐にまで昇進したその多大な戦功と空戦技術の一派の創始者としての名声により、生き残りの旧部下を始め後世の人々から「空戦の神様」と賞賛された。
しかし彼の本望は最後までスパルタニアンによる艦隊撃破にあったのである。
 後年の彼は、バーミリオン星域において行われた戦没者慰霊祭において正式な祭典には遂に参列しなかった。慰霊祭終了後、ただ一人で花束を星空の大海に向けて放ったのであった。