思い出の作品達 第百十四回 「弟切草」

弟切草

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チュンソフト 1992-03-07
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かまいたちの夜
 サウンドノベルシリーズの記念すべき第一作目。
 コンシューマゲーム機におけるADVゲームというジャンルに新風を吹き込んだ金字塔的な作品。
 本作を発端とし、Leafビジュアルノベルシリーズを起点として、美少女ゲーム界に今や圧倒的な勢力を誇るジャンルと言える。
 
 物語は人里離れた山間の狭道、不可思議な現象に襲われて車を失い森の中へと誘われてゆく主人公とその彼女「奈美」。
 やがて、森の只中に現れる弟切草に包まれた洋館。その中で発生する様々な超常現象。
 ミイラ・怪魚・彷徨う鎧等々が、時にコミカルに/時にシリアスに彼らへと襲い掛かる。
 そんな中で明かされる「奈美」の秘密と悲しい過去。たまにお笑い。
 果たして彼らの行く末に待ち受けるものとは……俺としては怪物家族ネタとその発展系のドッキリネタが好きだったなぁ。
 
 ゲームの原作脚本に本職の作家を起用し、シナリオ面において読み応えのある内容を用意。
 「ポートピア連続殺人事件」以降、ADVの基本形となっていたコマンド総当り制による物語の進行を廃し、場面場面で選択肢を提示して物語を変動させる形式を採用する。つまり、『謎を解いて(物語を進めて)ゆく』という従来のADVゲームから『物語に介入する』というパラダイム・シフトを提示した作品であると評する事が出来るだろう。その影響力の大きさは上記の通り。
 
 必要最低限+αの選択肢によって物語を分岐、文章を画像・映像や音声・特殊効果で盛り上げる手法は当時の風潮と相俟って一躍チュンソフトの名前を一般層に広く知らしめる事となる。無論、選択肢のみならずランダムな展開分岐を取り入れる事によって「何度読んでも楽しめる」つくりとなっている辺りにゲーム屋の矜持を感じるのは俺だけだろうか。尤も、本作におけるランダム分岐は物語の辻褄を破壊する副作用を生んでいたりもする。尤も、ランダム要素による物語の破壊自体を物語の内部に取り込むシナリオを準備していたりする辺り、抜け目が無いのかもしれない。
 
 そういえば、少し話は広がるがサウンドノベル三部作はそれぞれに上手くシステムの改良→発展が見られるんだよな。ランダム分岐を採用して小説とゲームの融合を目指した本作/多彩な分岐による物語の変化によって、基本的に同じ設定の人物が同じ舞台において様々に立ち位置を変えて読む者を楽しませる、ある意味最も現在主流となっている選択肢方式のADVに近い形式の「かまいたちの夜」/平行する登場人物の行動分岐を互いに絡ませあい、プレイヤーの手によって一つの舞台における「正しい」物語を構築してゆく「街〜運命の交差点〜」といった風にノベルゲームにおけるゲーム性を真摯に追求していった感がある。
 
 そんな、近年におけるADVゲームの本流。その源泉となった本作。
 少々荒削りで無理矢理な感はあるが、未プレイならば一度は試してもらいたい作品である。