思い出の作品達 第百四十六回 「街 〜運命の交差点〜」

街 運命の交差点 / PS one Books 街~運命の交差点~ サウンドノベル・エボリューション3

PS one Books 街~運命の交差点~ サウンドノベル・エボリューション3
PS one Books 街~運命の交差点~ サウンドノベル・エボリューション3
チュンソフト 2002-04-04
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 今まで幾度となく触れているが、俺にとって『最高のノベルゲーム』を問われれば本作を推すしかない。
 サウンドノベルという形式を世に広めたチュンソフトが、最後に辿り着いたであろうノベル「ゲーム」の一つの到達点。
 それこそが本作だったと、今尚胸を張って世間に叫ぶことが出来る。いやまぁ、売り上げや形式としての完成度は2作目(「かまいたちの夜」)の方が上なんだけどさ。
 
 ADVというジャンルは今まで幾度となく劇的な進化を遂げてきた。
  単語から正解を選んで進んでゆく草創期、
  無数に存在する単語から規定の行動(コマンド)を選択してゆく形式へと変えた黎明期、
  ノベルパートとゲームパートといった複数の要素を組み合わせた作品が現れていった発達期、
  そして、選択肢形式によって分岐してゆくチャート式の物語がゲームとして成立していった成熟期……
 ……本作は、選択肢形式の所謂『サウンドノベル』を更に進化させ、より物語世界を巧みに描くことに成功した実験作である。
 
 物語の舞台は渋谷、主人公は八名と少々。期間は五日間。
 個々には全く係わり合いの無い、ただ『物語の間、渋谷に居た』というだけの共通点のみを持ち合わせる人々。
 高校生、大学生、フリーター、作家、刑事、俳優、元ヤクザ、元傭兵。
 生まれも育ちも現在の境遇すら区々であり、当然彼らによって描かれる物語はそれぞれ全く違う代物である。
 だが、袖振り合うも他生の縁。ただ、同じ地域に居たというそれだけの縁で、彼らの物語は複雑に粗雑に複雑に絡み合って織り成されている。
 ある人物の運命の選択肢が、別の人物の運命を決めてしまう。そんな物語の中で、最適解を見つけ出し組み合わせ、物語の終幕へと向かう。
 ……本作は、そんな物語というパズルのピースを嵌めていく様な作品である。曰く、ノベルゲーム版チクタクバンバン
 ぶっちゃけると、各主人公の選択肢同士の組み合わせで各々にバッドエンドが発生したり、或いは他人の物語から別の他人の物語の続きへ物語がつながっていたりするから、正しい道筋を見つけて解いていかせる事を目的としたノベルゲームである……そりゃ確かにチクタクバンバンだなぁ。
 
 ゲームとしては従来の『サウンドノベル』を並行で相互関係を持たせて進行させ、互いに『ザッピングシステム』を用いて繋がりを持たせる事により、本来有り得ない筈の見知らぬ他人との『縁』を描いている。また、本編とは然程関係は無いが知っておくとより楽しめる物語世界背景〜所謂、世界設定〜についての情報をTIPSという形で作中の様々な部分に設置する事によって、本作世界をより深く理解していける。或いは、本来ゲーム目的としては分岐失敗点であるBadEndにも凄まじいまでの差分を用意するというような、遊び心満載の仕掛けがプレイヤーを飽きさせない様に鏤めて存在している。
 しかしながら、スタイルが固まっていないと上述した様に、『ノベルゲーム』としてはかなりの瑕疵が存在し、
  ・細かくBadEndが存在するのにオートセーブが(PSPリメイク版に至るまで)無い、
  ・BadEndのリストが存在するのにBadEndの閲覧モードが無い、
  ・ザッピングシステムによる有り得ない物語同士の係わり合いを描き過ぎて、かえってシナリオのテンポが阻害されている
 と言うように、批判の声も耐えない。というか操作性がなぁ……
 
 群像劇が繰り広げられる『渋谷』、そのとある5日間を楽しめるのであれば、非常に細かく馬鹿馬鹿しい。そして少し切ない。
 様々な瑕疵はあれども、あのシステムとあの雰囲気を生み出した本作は紛れも無く傑作ADVの一つと呼べる域の作品だろう。
 今ならば(ロード時間がうざったいものの)PSP版もあるので、手に入れる事は容易いだろう。是非、一度試してもらいたい作品である。