思い出の作品達 第百六十五回 「ファイナルファンタジー8」

ファイナルファンタジー? / ファイナルファンタジー 8 / アルティメット ヒッツ ファイナルファンタジーVIII

ファイナルファンタジーVIII
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 先ず第一に、俺はFF8を基本的に肯定する立場だったりする。
  つまり、本作は名作であり大作であり意欲作であり鬼作であるとした上で、本作を批評する立場にある者である。
 次に、本作は問題作であり駄作であり製作者と一部ファンが暴走気味で大半のユーザーからそっぽを向かれた作品である。
  これについて、俺は本作を褒め称えると同様に深く同意を示すところである。本作を正しく評価したいと思うが故に。
 
 本作は1999年初頭に発売され、前作における高い評価を土台に凄まじい前評判にて期待されていた90年代最後にして最大の大作RPGであった。
 そのプロジェクトの大きさや作品の影響力は計り知れない規模にまで拡大しており、ゲーム進行に致命的となるバグ(Disc3のアレ)があったというだけでテレビニュースが流れるといった椿事にまで発展した事は当時を知る人ならば概ね覚えているだろう。まさに国民的RPGとしての地位を独占状態だったといっても過言では無い。
 しかし、そういった国民的なRPGとしての名声は、逆に言えば『広いユーザーからの万遍無い支持』が要求され続けるという枷にもなり得る。既に社運を左右するプロジェクトにまで育っていた本シリーズ。失敗が決して許されない作品であり、その為には老若男女・新規古参全てを視野に入れた作品作りを心掛けなければならなかった。ならなかったのだ。
 されども、同時に本シリーズは常に挑戦し続けていた。基本となる骨子を違えてでも常に新しいシステムを/表現を模索し続けていた。手を変え品を変えて、新たな作品を構築し続けていた。定まったシステムのマイナーチェンジを心掛け、保守的な色合いが強かったDQとの差別化と言うべきか兎にも角にも一作たりとも同じシステム構成だった作品は存在しない。殊、FF7以降はその傾向が強く、一作毎に全く手応え異なる『別作品』を作り続けていた……とまぁ、そんな作品群だった訳である。
 前作とは違った手法・構成で、前作までのシリーズと同等以上の作品を作る。それでいて、熟練のハードゲーマーから無垢なライトゲーマーまで一定以上の満足を得られるだろう作品に仕上げる。そういった条件下において製作スタッフが下した決断が『今までの和製RPG一般における常識を裏切る』といった代物だった……え〜と、それをやるから今に至るまで叩かれる訳なんだけどなぁ。
 
 さて、本作は常識を破る仕組みを多数組み込んだ意欲作となっている訳だが、
 
  ・レベルは己の強さを定めるものである以上に、相手の強さを決定付ける要因である。
   ・レベルを上げると己の能力値の上昇以上に、相対する敵の強さが増加する
  ・アイテムは基本的なもの以外、敵からのドロップ中心となっている
   ・ドロップアイテムは戦う相手が強い=レベルが高い程、レアリティの高いものが手に入る
   ・金銭は本作では(回復系消耗品以外の)アイテム購入には殆ど使用しない、『武器改造』『運賃』が一番使うところだろうか
    ・ついでに言えば武器改造は過半数において実戦闘では大きな意味は無い。重要なのは『ジャンクション』である
  ・魔法は『ドロー』するか『精製』しなければならず、それ自体が消耗品である
   ・同時に魔法は召喚獣とセットで『ジャンクション』にてキャラクター能力値・属性を定める武器防具である
   ・『ドロー』は敵モンスターからレベルに応じて所有している『魔法』か特定の相手が所有している『召喚獣』を獲得出来る
   ・『精製』は『魔法』からより上位の魔法を、或いは『アイテム』から様々な『魔法』を作成する能力である
  ・召喚獣はそれ自体が強力な威力を誇る攻撃手段であると同時に、キャラクターを守る肉壁である
   ・更に付け加えるならば任意・随時で各キャラクターを強化する為の枠組みであったりする
  ・基本的に一本道のシナリオが用意されているが、メインシナリオだけでは唐突過ぎる展開が多い
   ・かといってサブシナリオを追ってみても、どうでもいい小話も多い
    ・しかしながら、その『どうでもいい小話』を掻き集めて組み合わせると一つの世界が見えてくる
  ・本作世界観や作品用語、舞台背景などは随時『チュートリアル』にて確認する事が出来る
   ・というか、確認すると意外なほどに色々な事柄を深く理解出来る仕掛けとなっている
   ・同時に、様々なゲーム内テクニックを『自発的に』見つけ出せる様な誘導が仕込まれている
 
 ……えっと、俺が把握している範囲で箇条書きにしてみたが、正直なところ俺自身ちゃんと判っているとは言い難かったり。本作についての深い考察は【CrownArchive】を参照していただく方が早いだろう。上記に挙げた様々な要素についても氏の考察に影響を受けた部分が大きい。(それと解体新書とか。)
 システム・シナリオの両面において自発的な行動を推奨し、そこはかとなく序盤にてそれを匂わせる事によって、本作の広い世界をユーザーに体験させ、その上で世界の命運を左右する物語に巻き込まれてもらう……まぁ、そんな意図が感じ取れる作品となっていると、無理矢理に纏めるとそんなところだろうか。判らなくても問題は無い様に作ってはいるが、判っていると/推察するとより深く楽しめる。どんな作品にも仕込まれている要素を最大限に仕掛けに仕掛けた作品。それが本作であると、俺はそう理解している。
 
 ただ、問題となっているのが、そういった本作の楽しみ方への誘導において『事前情報』『作中における誘導』『発売後の風評』の全てにおいて裏目に出てしまっているという事だろうか。大半のユーザーは単純作業の繰り返しとなる『ドロー』に辟易し、唐突過ぎる展開の物語に混乱させられ、流されるままに作品エンディングに辿り着いたり途中で投げ出したりで、結局のところ製作者の意図通りに/意図に反して『今までのRPGとして』プレイしてしまう。結果は良くも悪くも中途半端な作品、されども本作は「ファイナルファンタジー」の金看板を背負った作品。故に、必要以上の悪態や不満が噴出→連鎖爆発し、今に至るといった感じでは無いだろうか。
 正直なところ、『プレイヤーに気付かせる』といった仕掛けを前面に出し、『ジャンクション』といった要素をシステム/シナリオの両面で上手く絡ませて作品を表現している本作、俺個人としては中々に名作だと思うと同時に、判り難いとも理解している。そして、万民向けである作品において必要以上に判り難い代物を前面に押し出す事は悪手であるとも。かなり色合いは違うが、以前に取り上げた「ヴァルキリープロファイル」の様に狭い層を相手に、最初から周回プレイを前提とした作りであれば納得もされたかもしれない。(こっちにしたところで批判は十分あるし、ある意味においてはFF8以上に悪質な仕掛けなんだが。)されども、万民向けを、300万人にも及ぶユーザーを前提とした作品において作品構成の王道を外し過ぎるのは、正直なところ製作者の自慰であると揶揄されても仕方が無いと思う。だからこそ、多くの人がこう評するのだろう。『「ファイナルファンタジー」でなければ、面白かったかもしれない。』と。
 
 俺は楽しんだし、俺以上に楽しんだ人も何万人といるだろう。
 されども、本作は酷評され続けるべきである。プロジェクトの方向性を取り違えた失敗談として。