適当に思いついた物語・シチュエーション

 妄想を記すだけのページ。
 いつの日にか物語へと形為す事を祈って、今日も残骸を積み上げる。(祈るだけで物事が動けば世の中皆幸せだろうな、阿呆。)



 
 「成る程、成る程。」
 男の声が静寂に木霊する。
 「一の太刀を捌かれる事を前提として、二の太刀を紡ぐ連撃か。
  ……いやはや、予期していたとは言えども中々のものだったぞ。」
 右袈裟の切り下げを死に手として、無限螺旋の軌道を描いて逆袈裟を切り下げる己が隠し玉。
 強靭に鍛え抜かれた粘りある足腰と、人として無理な駆動をも物ともしない強肩を以ってして放たれる有り得ぬ斬撃。
 「だが、その様な児戯が秘剣とは片腹痛い……世評と言うものは当てにならんものだ。
  『渾身にて放つ一の太刀を捨てて腕振り芸の二の太刀に賭ける』等という技を以って秘剣とほざく輩が何故に剣豪と名高いのか……理解に苦しむ。」
 幾分嘲りの色を含んだ苦笑いを浮かべて男が呟く。
 ――――まぁ確かに、言っている事に矛盾は無い。あんな技が使える等とは俺自身思って居ないのでな。
 「尤も、大方先ほどの太刀筋をも見切れぬ様な未熟者とばかり果たし合っていたが故の虚名であろうが……」
 ――――欲しかったのは、その油断。その為に態々己が身を危険に晒してまで彼の如き愚技を放ったまで。
 「その虚名も、今宵までだ。
  ……巌流、貴様はここで惨めに死ね。」
 言い放ちつつ、下げた剣を鞘に納める……男の周りに漂う空気の温度が急激に下がったような錯覚。
 僅かながら落とされた腰、幾分前に掛けられた重心、手元は鍔元にそっと添えられるままに。
 「居合い、か?」
 「如何にも。我が流派の由来たる神速の抜刀、冥土の土産に目に焼きつけておけ。」
 

 
 「ふっ、今日の我輩は機能までの我輩とは一味も二味も違うのである。
  そう!例えるならば今の我輩は西へと向かうガンマン、荒くれ者の中で孤高に輝く宝石の如き一番星。
  幼き頃の出会いを胸に少年は荒野へ向かう、行く手を遮る鎧、次回作で使いまわし。
  ガンズ・ブレイズ・ドクタァァァァ・ウェェェェェスト!!」
 「単行本三巻で打ち切りロボ〜」
 打ち切りなのか。いやまぁ、深く突っ込んではいけないと思うけれども。
 

 
 人を殺すのは何時だって人だ。
 
 幽霊や妖怪、地球外生命体や未確認生命体の様な居るのか居ないのかも定かでは無い代物に殺されたりはしない。いやまぁ『本当は結構な数で拉致られたり憑り殺されたりしているが、国家はそれを隠蔽している!』なとど何でもかんでもそっちの仕業にこじつける頭の温かい人々も居ない訳ではないが、少なくとも俺の知る限りにおいてはそんな事実は存在しない。
 
 野生動物や病原菌の類には泣かされて来たのかもしれないが、そっちの方は大方片付きつつある。今日び、余程の限られた条件や環境を整えられない限り野犬に噛み殺されたり流行り病でバタバタと倒れたりと言うのは(少なくとも先進国と呼ばれる地域では)その事実だけでニュースになるぐらい珍しい出来事と化している。逆に野生動物はその数を凄まじい勢いで減らしていたりして、その保護を訴える人間が暴走していたりする位だしな。
 
 しかしながら、戦争とか殺人・放火・傷害・強盗・強姦などの殺したり殺されたりする脳内麻薬万歳な出来事は今日も地球上全てを多い尽くす勢いで蔓延しており、ついでに言えば自殺や事故も脅威を振るっていたりする……そう、今日も人は人自身で人を殺しているのだ。
 
 然れども、考えた事があるだろうか。
 
 何故、人は人を殺すのか。
 何故、人が人を殺すのか。
 
 『人は神の最高傑作にして最大の失敗作だ』という言葉は誰のものだっただろうか。
 神の恩寵を受けながら神に背き、神に放逐される所業を為しながら神に縋り付く。
 ――――自己矛盾の塊である利己的な生き物。
 
 
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 ……まぁ、深く考えたところで答えなど出ない。
 そもそも、『答えなど、無い』と考えるのが妥当なところか。
 何せ、有史以前より考えられ続けているだろう問題なのだ、今に至るまで答えが無いということは、多分、そういうことなのだろう。
 
 
 だから、私が人を殺す事も、私が人に殺される事も、多分、どうでもよい事なのだろう。
 ≪『ある殺人者の日月抄』より 抜粋≫
 

 
 「な……何なんだよアレはッ!?」
 「何と問われてもな……それは非常に難しい問題だ」
 黒衣を纏った初老の男は相変わらずの飄々とした態度で答える。
 よく見れば、黒衣から垣間見える肉体には――或いは内包されし精神にも――そこら彼処に無数の傷痕が刻まれていた。切創、裂創、刺創、咬創、挫創、銃創……その他、如何なる手段を以って刻まれたのかすら不明な痕跡まで。
 無論、衣服の上からでは全てを把握出来る訳ではないが、確認した範囲内に無傷だった場所など何処にも無かった。
 ――――正直、生きているのが不思議な程に。
 「時に。」
 男が問う。
 「君はラヴクラフトを知っているかね?」
 「らぶくらふと?」
 「そう、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。二十世紀前半にアメリカにて活躍した怪奇小説家、或いは彼と彼の信望者・同好の士が作り上げし最も新しき神話群の総称の事だ。」
 「名前ぐらいは……」
 「結構、ならば話が早い――――アレはその神話の担い手達だ。」
 

 
 「この拳は幾多の敵を打ち砕いてきた。」
 ――――その度に、己が心を打ち砕いて。
 「この剣は数多くの敵を切り裂いてきた。」
 ――――その度に、己が心を切り裂いて。
 「この体は数え切れぬ敵の血を吸ってきた。」
 ――――その度に、己が心を血まみれて。
 「この身は立ちはだかる敵を倒す為にこそあった。」
 ――――その度に、己が心を裏切って。
 
 「だから、私は、これからも、戦える。」
 一拍毎に区切りながら、強調して紡ぎ出す言葉(ウソ)。
 今までの半生で積み重ね、塗り固めてきた虚構(ウソ)。
 
 「だから……もう、私に関わるのはよせ。」
 誰にも傷ついてもらいたくないから、己を傷付ける。
 誰にも傷ついてもらいたくないから、己に嘘をつく。
 
 されど、嘘に塗り固められたその本心は、硝子の如く繊細で。
 それ故、嘘という殻さえ剥してしまえば、硝子の如く輝いて。
 
 「嘘だっ!!!!」
 叫ぶままに抱きしめる。
 思うままに抱き寄せる。
 
 「お前は判ってなんかいないっ!!!!」
 突き放す事も無く、されど身を預ける訳でも無い少女に向かって告げる。
 「世の中には一人で戦える奴も、一人で戦わなきゃいけない奴も、居やしないんだ!!」
 お前は一人じゃないと、訴える。
 「誰かが隣にいるからこそ戦える、誰かが待っているからこそ戦える。
  誰かを思うからこそ戦える、誰かに求められるからこそ戦える。
  誰かを憎むからこそ戦える、誰かを愛するからこそ戦える。
  ……人が在る理由は、他人がそこに在るからなんだよっ!!」
 例え憎まれようとも、例え厭われようとも。
 例え想われようとも、例え愛されようとも。
 他人があるから、自分がある。
 自分があるから、他人がある。
 「だから、自分が、独りだなんて、勝手に決め付けるな!」
 
 硝子の如き心だからこそ、求めていたのは熱き血潮。
 硝子の如き身だからこそ、求めていたのは鋼の士魂。
 
 「あ…………」
 気付けば、彼女の頬は濡れていた。
 戦うと決めた、その時から流れ落ちる事の無かった涙が頬をつたっていた。
 「あぁ………」
 とまらない、留まらない、止まらない。
 一度堰を切れば、流れ落ちるが理。
 一度壁が崩れれば、押し留められぬが理。
 「あぁぁぁぁああああ………!!」
 泣く、泣く、泣く、泣く、泣く。
 十数年分の涙は、今この場で流す為にあったのだと。
 十数年分の傷は、今この場で癒される為に負ったのだと。
 「うわぁぁあぁああぁあああぁああああ!!!」
 少女は、産まれて初めて、人の温かさに、泣いた。